第63話 村人冒険者シュエリーvs元貴族スマイン! 前編 

 シュン、大丈夫かしら?

勝ったのはいいけど、腕をやられるなんて誤算だった。

帰ってきた彼はこちら(シュエリー)に手を上げて見せる。

ハイタッチをしようとしているのだけれど、右腕はすぐに左肩を抑えに戻った。


「どうしましょシュン。もしかしたら治療班......」


 そう、誤算というのは大怪我をして治療ルームに行くこと。

ギルド主催のこの大会、あの部屋に満身創痍で連れてかれたらどうなるかわからない。

私が付いていくのが安全ではあるけど......。


「次の試合、準備お願いします」


 そう、第2試合は......。


「シュエリーさん、行ってきていいよ」


 額にかなりの汗が湧いて、とても平常ではない。

けれど、彼は辛そうな顔はしなかった。

それが余計、事の問題を浮き彫りにさせる。

仕方ない、大会は翌年もあるんだ。

それまでの間に、うまく逃げ続ける。

それか別の方法で王に謁見するとか?


「はぁ、シュエリーさん。もしかして、ビビってる?」


「は、はぁ!? な、なに急に」


 こいつ、こんな状況で煽るか普通!?


「仕方ないよね。スマインと戦ったあの日、勝てなくて俺に任せたもんね。

悔しくて泣いてたみたいだけど、今回もそうなるの......かな?」


 私は何も言い返さず、彼の顔をただ見つめるしかできなかった。


「救護班です。さ、こちらにどうぞ」


「あ!? ちょっと待って!?」


 薄暗い廊下に彼は連れ去られていった。

私は後を追いたかったが、シュンの真剣な顔を思い返して踏みとどまった。

模擬戦最終日にしたあの話、シュンは本気なんだ多分。

......なら、しょうがないわねもう。


「準備完了しました! 行きます!」


 入場ゲートを抜けると、私に一斉に視線が注目した。


「おぉ、かわいいじゃん! 村人冒険者の女って聞いてたけどさぁ」


「あぁ、ゴリラ女だと思ってたけど。こんなにちっさくてかわいいとは」


 観客は喜びの声を上げ、出迎える。

いつもなら喜んでサービスしてあげるけど、今はそんな気分じゃない。

私は無言で、フィールドに上がった。

中ではすでに、スマインが素振りをしている。


「へっ、遅いな。身体が冷めるとこだったわ」


 こいつ、本当にイヴァンに何か命令されているの?

なんか態度とか、どことなく自然というか。

わざとらしさがない。


「さて、お前には恨みは山のようにある。どうしてくれようかなぁ」


 でも、そうよね。

どっちにしても油断できないわ。


「やーい元貴族野郎! シュエリーちゃんに手加減してあげないと、許さねえからなぁ」


 観客の、恐らく貴族であろう誰かがそう声を張る。

しかし、スマインの鋭い眼光を向けられるとか細く「う、嘘です。スマインがんばれ~」と、切り替えた。


 そして、その鋭い眼光は私にも向けられる。


「さぁ、第2試合の開幕だぁ!」


 マナフェスの開始の合図に、会場は少し地鳴りする。


「いくぜぇぇ!!!」


 スマインは奇声を発しながら空中を殴る。

魔法陣が展開したのを見て、私は杖を構えた。


「悪いけど、あなたに構っている暇ないのよね。速攻で片してあげる!」

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