第58話 カリブ、奮起する

「やいブス! 俺様を連れ回してどこへ行くつもりだ!」


「もう少しですから、お願いします!」


 俺(カリブ)はカタリナに美女がいると言われ、強引に街中を連れ回されている。

たくっ、もう俺の最後の極楽貴族生活が終わろうとしているって時にこいつは。

せめて最後ぐらい、贅沢にしてくれよ。

そう心で愚痴を垂れてると、ブスの足が止まる。


「ここは、闘技場じゃねぇか! しかもこの人だかりはまさか……」


 カタリナの方を咄嗟に見ると、ニコニコと頷いていた。

そう、これだけ闘技場が盛り上がっている理由は一つ。

バトル大会が開催される。

この女、俺をここに連れてきたってことはつまり。


「ふざけんな! 俺は出ないぞこんな大会!」


 ただでさえ馬鹿にされてるんだ。

こんな大勢が見る中、予選落ちしたらどうしてくれる。

正真正銘の汚名じゃねぇか。

たく、わざわざ来て損したわ。

さ、帰ろ帰ろ。


「カリナお義姉ちゃ〜ん! どこの席座りましょうか?」


 ん? 覚えのある爆乳女の声がするぞ?

振り返ると、ミリアがフードを被った誰かと2人で会場へ向かっていた。

くそ、俺のこと見捨てたくせに楽しそうにしやがって。


「あ、カリブ様どこへ?」


 俺はブスを振り切り、ミリアの腕を掴んだ。

この女の悲鳴により、周囲はざわつき始める。

構わねえ、こいつに話さないと腹の虫が治らねぇ!


「てめぇ! 今までどこほっつき歩きやがった! てめぇが戻らねえからシュンの野郎も帰ってこねぇじゃねぇか!」


 フッ、逃げたときの威勢はどうしたミリア?

てめぇ、五体満足に回復した俺にビビってんだろ?

弓しか使えねぇてめぇが、俺様に逆らうからこうなるんだよ。

いいねぇ、久々に俺にビビる奴に会えたわ。

もう少し楽しむか、こいつの悲鳴で笑。


「落ち着いてカリナさん。穏便に、穏便にしてね」


 あん? 俺にビビってると思ったがなんかおかしいぞ?

この女、となりのフード野郎に視線を向けてやがる。


「この手を3秒以内に離せ!」


 フード野郎はミリアを捕まえた俺の腕をそっと掴んできた。

なんだこいつ、よく見りゃ女じゃねぇか。

脅しのつもりだろうが、そんな力で俺様を怖がらせるなんて無理に決まってんだろ。

どれ、こいつもビビらせ……て。


「な、なんだよお前! いてぇ、離せ! おい!」


 クソ!

どうなってやがんだ!

こいつの握力、最初こそ弱かったのに秒数刻むごとにどんどん強く。


「3、2、1、ゼ……。フンっ理解の遅い奴だ」


 俺は後コンマ数秒の時間切れ前に手を離した。

後少し遅ければ、確実に俺の手首はこいつにへし折られていた。

クソ! ゴリラ見てぇな力しやがって。

澄ました顔がムカつくわこいつ!


「行きましょうミリアさん。シュンさんたちの様子を見にいかなくてわ」


「そ、そうね。ありがとうお義姉ちゃん!」


「ミ、ミリアさん! だからそれはやめてください」


 こいつら、勇者パーティーのリーダーであるこの俺を軽んじて去ろうとしやがる。

許せねぇ、不意打ちでもいい。

こいつらに仕返して……。


「うわぁ!?」


 俺が剣を抜こうとすると、それを察知したのかフード女は鋭い眼光でこちらを見つめた。

その尋常ではない殺気に尻餅をついてしまう。


「「あはは! あれが本当に勇者パーティーのリーダーかよ! だっせぇ! みんな見ろこいつの情けねえ姿」


 俺の周りにいた傍観者どもは、ケラケラと嘲笑ってくる。

その人混みをかき分け、ブスは手を差し伸べる。


「カリブ様、どうされます? やっぱり辞めますか?」


 クソ!

あの女共には無視され、傍観者どもに馬鹿にされ、おまけにカタリナに哀れに思われた。

俺は強く地面を叩きつけ、コンクリートを粉砕した。


「あ……はは。み、みんなもう散ろうぜ」


「あぁ」


 フン、今頃気づいたのかてめぇら?


「私は、カタリナは……カリブ様にこの大会で優勝していただきたいです。それでもう一度、カリブ様の強さを見せつけて……んぐ」


 俺はカタリナの口を奪い、黙らせた。


「うるせぇブス。

てめぇに言われなくてもわかってんだよ。

俺様が最強だってこと、雑魚どもに思い知らせてやろうじゃねぇか!」


「はい! 行きましょう!」


「あ、その前にしょんべん。便所までついてくるなブス!」


「はっ、すいません!」


 見てろよミリア、シュン、そして雑魚ども。

倒した奴ら全員、その場で尿ぶっかけてやる!

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