第59話 イヴァン、完全なる誤算をする

 円形の闘技場、最上階。

王と数人の近衛兵、爵位の高い貴族しか踏み入れることはできない。

私(イヴァン)はそこへ、カエサルの後に続き踏み入った。


 中は他の席とは違い、広い空間が設けられている。

その部屋にポツポツと一定の間隔を空けて座り心地の良い、豪華な椅子が置いてある。

この椅子に座って眺める闘技場はまさに圧巻である。

と、感動している場合ではないな。


「陛下、今日は恒例のバトル大会の見物にお招きいただきありがとうございます」


 私がそうかしこまると、カエサルは堅苦しいのはいいと手を振った。


「では」と言い放ち、カエサルの隣に座る。

にしても、本当に運がいいな私は。

まさか暗殺対象の2人が、こちらの巣穴に自ら入り込んでくれるとは。

数千のゴブリンを倒したとあって、迂闊に手を出せなかったがこれはいいぞ。


「イヴァン! どこへ行く? 一緒に組み合わせ表を見て、予想し合おうじゃないか?」


「陛下すみません。少々催してしまいまして。すぐ戻りますので」


 私はそういうと、席を外し1階下のクロノスが座る場所へ来た。


「イヴァン! どうして俺は上へ行けんのだ。お前だけずるいぞ」


 クロノスは憤っているのか、椅子の周りに置いた食べ物をむしゃむしゃと頬張ってる。

ふん、お前のような行儀のなってない者を招いたら私の評価も下がるというのに。


「にしても、あのシュエリーという村人冒険者殺さなくていいのか?」


「あ、あぁ。2人とも、この大会が終わる頃には疲労困憊だろ?そこをお前が仕留めてくれ」


 そういうと、クロノスはこちらをギョッと見て不服な顔を浮かべた。


「はぁー、結局不意打ちかよ。つまんねぇなー」


「仕方なかろう、もし失敗したら全て計画がパーだからな」


 そういうと、クロノスは杖を私の鼻先手前持っていき構える。


「許せねぇんだよ。この国で1番の天才魔法使いはこの俺だろ? にも関わるずあの女、転移魔法をすぐに習得しやがった!

弱った所殺したってなぁ、ここに残るんだよムカつくもんが」


 チッ!

またこいつの悪い癖が出てきやがった。


「クロノス落ちつけ! あいつは確かに強いが、奴の双子の妹たちはそれより才覚があると報告がある。

シュエリーを殺した後、双子と戦えばいいだろう?」


「そうなのか? あいつよりも強えなら、まぁいいだろう。仕方ねえ、ここは黙っておいてやる」


「あぁ、悪いな。じゃあ私は上へ戻るが、問題を起こさないようにな」


 私は上へ登る階段の前で、ため息をついた。

危なかった、あいつの横柄さに後少しで我慢の限界を越える所だった。

しかし、これでクロノスも静かになり、計画は軌道修正の目処が立ったぞ。


「戻ったかイヴァンよ。さ、君は誰が勝つと思う?」


 カエサルは席に座る私にすぐ、対戦表を見せつけてきた。

恐らく、こいつはもう予想を付けたのだろう。

仕方ない、私もここは王が選びそうなカードを切るか。

お、評判は落ちたが勇者パーティーのカリブがあるではないか。


「この、勇者パーティーのリーダーはどうですか? 陛下、この者は最近は調子が悪いようですが実力は本物です」


 そう答えるが、反応が良くない。

どうやら、この男は別の人物を選んだようだ。

はぁ、目利きも悪いとは本当に愚王と呼ぶにふさわしいな。

そんな無能だから、この私に野心が芽生えるのだぞカエサル!


「イヴァンはその者か。残念じゃ、わしはこの2人。

この2人は勇者パーティーが失敗したクエストをクリアしたそうじゃないか。

評価は良くないのに、大したもんだ」


 対戦表の名前に、この男が指を置いたその瞬間だった。

私の頭にとてつもない不安が押し寄せる。

そうか、こいつらはただ巣穴に飛び込んできたのではない。

根本を断ちにきやがった。


 この大会でFランクか村人冒険者が優勝してしまえば、王はギルド制度改革の計画を早める。

そうなればカエサルの評価は戻ってしまい、私の計画はパーだ。

いや、それだけではないぞ?

この大会で勝てば、優勝者は王との謁見を許される。

やばい、これは真逆だ。

蟻地獄に落ちたのは私の方。

くそ、使いたくない手だったがあれしかない。

私は無名の魔法使いを対戦表から見つけだし、すぐにクロノスの方へ向かった。

奴らを何としても、優勝させるわけにはいかない。

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