闘技場の戦い

第57話 シュンとシュエリーの模擬戦闘

「シュン! 今日であなたと私、何戦目かしら?」


 俺(シュン)はイキリまくった顔をこちらに向ける、シュエリーと対峙していた。


「100回じゃないかな?」


「あははっ! これで負けたらあなた、100回100敗よね。おほほ!」


 なぜ彼女と戦っているかというと、冒険者同士のバトル大会に参加するからだ。

1対1で戦闘しなきゃいけないので、1か月前からこうして模擬戦をしている。


「で、そろそろ大会に出る理由を話してくれないかな?」


「何度も言っているでしょ? あなたが私に勝ったら教えてあげるって」


 そういうとシュエリーは杖を構えて、戦闘モードになった。

バトル大会は、両肩と頭につけた紙風船を全て割った方が勝ちとなる。

彼女はハンデと称して頭に1つだけつけている。

99勝したことで、完全に俺を舐め切っている。

しかし、俺もただ彼女に敗れて来たわけではない。

脚と拳に魔闘器をはめる。

拳に装着した魔闘器は、脚のと同様にMPのみを使う。

相手の身体に接触した瞬間、MPの量に応じて様々な威力の吹き飛ばしが可能となる。


 つまり、今の俺は魔法使いでありながらも格闘が主体の戦闘スタイルになっているんだ。

この日まで、軟弱な身体を鍛えていたため彼女に勝てなかった。

時は来た、あの偉そうな顔を泣きっ面に変えてやる!


「行くよシュエリーさん!」


 足に溜めたMPを爆発させるように放出し、最速で彼女に距離を詰める。

加速した身体がシュエリーを通過する。

その様子を見て嘲笑う彼女に、俺はニヤりとやり返す。

即座にその場に急停止し、反動を使った裏拳を放った。

隙をついて且つ、当たれば必殺の攻撃。


「テレポーション!」


 そう唱えると、彼女は数メートル先に移動していた。


「あ! ずるっ!」


「ずる? あなたがこれ私に覚えさせたんでしょうが! 人聞きの悪い」


 ちくしょう、どんなに隙を突いて接近してもいっつもこれだ。

バスターが使えない俺にとって、魔闘器を使った近接戦闘しか1人で可能なものはない。

それを知ってるから彼女は、白兵戦になるとすぐに転移して逃げる。


「シャボンフラッシュ! プラス、テレポーション!」


 で、距離離したらこの鉄板コンボである。

模擬戦をしてからというもの、彼女はこの技の組合せが超好きみたいだ。

俺の周囲、上下左右すべてに転移魔法陣を展開し、中にシャボン玉を散布している。

拡散することなく、転移魔法陣によって玉は閉じ込められるから厄介だ。

周囲の魔法陣は徐々に収縮し、俺の逃げる場所を減らす。

それだけシャボン玉に当たる確率は上がる。

で、魔闘器の力でジャンプした先は完全に彼女の攻撃が待ち構えている。

このままいつもは収縮しきって、目を開けないほどの閃光をひたすら浴びせられる。

それで、身動きできないでいる俺に近づいて来た彼女がポンポンと軽く風船を割って終わるのだ。


「さ、今日も鳥かごの中でじっくりと負けを噛み締めなさいシュン」


 彼女はこの技が好きな本当の理由は、この煽りをしたいからである。

確実に迫る負けをただ手をこまねているしかない俺を見るのが、たまらなく楽しいようだ。

だが、この99敗で得た経験は無駄ではないんだ。

俺は両腕を構え、前後にある転移魔法陣に向けて放った。


「あなた! 悔しいからってそれ撃つの!? 地球壊れちゃうでしょ馬鹿!」


「残念! 壊れないんだなこれが」


 バスターは対消滅し、間に撒かれていたシャボン玉を消去した。

よっしゃ、成功!

轟音で耳を塞いでいる彼女に接近した俺は、頭の紙風船をポンと叩き潰した。


「はい、俺の勝ち」


 ニッコリ笑うと、彼女は茫然とこちらを見つめた。

あれ? 悔しくないのかな?

ならもっと仕返ししてやろうっと。


「ナデナデ。 どうだいシュエリーさん、99勝した相手に頭撫でられるのは?」


「キモい」


「あ、ごめんなさい」


 なんだろう。シンプルに心に刺さった今!

確かにやり返すといっても、頭を撫でるのは女の子にはやりすぎかもしれん。

あー、数秒前の自分を客観的に見たら恥ずかしくて死にたくなってきた。

やべぇ、なんか変な汗出てきた。


「シュエリーさん、今日はもう帰るわ」


 はぁ、やっと勝てたのになんだかいい気分しないや。

突然、背を向けた俺に華奢な身体が抱き着いた。


「う、そ」


 耳元でそう囁く彼女に、俺はビクリと全身を震わせる。


「あはは、反応おもしろ笑。まぁ、これであなたもようやく戦力になったってわけよ」


 そう面白がる彼女に、俺はしばらく頭をわしゃわしゃされた。

その後大会に参加する理由を教えてもらったが、まったく耳に入らなかったので結局また怒られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る