第54話 ミリアとカリナの日々。part.3

 私(ミリア)は髪の毛が皿の中に入っていたからと強引な言い訳で、2人を黙らせた。

その後、耳打ちでカリナさんにスプーンとフォークを使ってもいいと教える。


「はい、ごちそうさま! 皿は私がやるから、カリナは寝室戻ってて!」


 彼女が食べ終わると、背中を押してリビングから去らせる。

手伝うと声がしたけど、私はそれを無視しました。

今はとりあえず、パパたちとカリナさんを近づけないほうがいいからです。


__数分後__


「ミリア、あの友達はなんなんだ?」


「そうよミリアちゃん、説明してくれる?」


 2人は皿を洗い始める私に、声をかける。

そうですよね、玄関で裸になったり素手で食事をしようなんて、変に思われても無理はないです。


「説明もなにも、友達だって」


 シュンさんとシュエリーさんのためにも、今の状況をパパたちに知られるわけにはいけません。

私がそう言い訳すると、2人はため息をついた。


「いいミリアちゃん。あなたが冒険者になるってことは納得したけどね、あんなおかしな友人を持つのはダメよ。

もしもミリアちゃんが変なことに巻き込まれたら、ママ悲しいわぁ」


 おかしな友人……か。

私はこれまで、家や学園にいたときは誰からも愛されて育ってきました。

何不自由ない生活に退屈して、家を飛び出した自分とカリナさんは違う。

彼女はきっと、私とは真逆の生き方をしてきました。

自分のことを思ってくれる人たちを殺そうとしなければいけないほど、毎日を生きるのに必死なんです。

ここで私が見捨てれば、またそんな日々に戻るでしょう。


 沈黙して考え込む私を見て、パパとママはリビングから出ようとしました。

その手を掴み、何をするのか聞くと...。


「ミリアが言い出しにくいなら、そこで待ってなさい。私たちがもう付き合わないよういってくる」


「待って! やめてよママ、パパ!」


 私は今まで、冒険者になったとき以外で親に強く出れたことはありませんでした。

ここで2人を止めなきゃいけないのに、力を振り絞れない。

振りほどかれ、2人が寝室のドアを開くまで私は後を追うことしかできませんでした。


「あれ、どこへ行ったのかしら?」


 ママがそういうと、私は落ち込んだ顔を上げた。

視界に飛び込んできたのは、カーテンの布が窓の外へ風によって運ばれている光景でした。

寝室に入ると、ベッドの上に置手紙とお金があります。


「ふん、勝手に帰るとは無礼も極まってるな」


「そうね、やっぱりミリアちゃんと付き合うにはよろしくないわ」


 カリナさん、きっとママたちとの会話を聞いていたんだ。

だから、これ以上迷惑をかけないために......。

私は外着を羽織り、玄関へ向かいました。


「ちょっとミリアちゃん、もう暗いんだから外に出ちゃダメよ」


 今度はママが私の腕を掴んできました。

パパも、冒険者になりたいといったときと同じぐらい怖い顔になっている。


「あの子を探しに行こうとしているのかミリア! やめなさいあんな子」


「私の......自由でしょ。誰と仲良くしても別にママとパパには関係ない」


 そういうと、ママはハンカチを取り出し鼻をすすり始める。

あぁ、あの時もこんな感じになって......。


「お母さんとパパはね、あなたのことを心配していっているのよ? あなたのことを大事に大事に育ててきたんだから、これ以上困らせないで?」


「何が困らせないでよ! いつもいつも心配しているからっていうけど、私はパパとママのペットじゃない!」


 あの時以上に、言葉が滑ってしまった。

2人とも、瞳孔を開ききったまま何も言わなくなった。

きっと、いつもの良い子の私と違って驚いたんでしょう。

でも、私はいつまでも小さな子どもじゃない。

ドジしても、誰かを傷つけてしまっても全部......もう自分で解決するんだ。


「じゃあねパパ、ママ! カリナ......いや、カリナさん探してくる!」


「待ってミリアちゃん!」


 ママの声を振り切った私は、薄暗くなった町へと溶け込んでいった。

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