第53話 ミリアとカリナの日々。part.2

 私(ミリア)がリビングに行くと、やはり雑然と配置していた家具や物は綺麗に整頓されていた。


「コップはここにしまって置くわよ?」


「あー、うん。ありがとうママ」


 人から見たら雑に見えますが、本当はあの配置が私にとって完璧なんですけどね。

でも、こんなこと言ったらまた叱られてしまいます。

とりあえず、料理を作りますか。

私が台所へ向かい、調理をし始めると2人は話し始めた。


「そういえばカリナさんだっけ? あの子の身体、傷だらけだったけどあれば何だ?」


 パパがそう話しかけてくるも、私は作業の音を大きくしてかき消す。

奴隷だったとバレてしまえば、2人は多分……。


「まぁいいか。ミリア、冒険者をやってみてどうだ? なんかパパたちに助けてもらいたいこととかないか?」


「だ、大丈夫だよパパ! 私もあと少しで20歳だし、心配いらないよ」


 そう言った直後、包丁で少し指を切る。

痛いと声を上げたら、すぐさま2人は駆け寄って様子を見てきた。


「ほらな〜まったく。

お前は1人じゃ何にもできないんだから、パパたちにもっと頼りなさい」


「うん……ありがとうパパ、ママ」


 はぁ、なんでこんな時にドジ発動させてしまうんでしょう私って。

これじゃあ家を飛び出して冒険者になったのに、以前と変わらない。

2人に自分は成長したんだって、いつまでも子どもじゃないって知ってもらいたいのに。

シュンさんみたいになれないのかな。


 落ち込んでいると、ドアからノック音がリビングに響いた。

恐らくカリナさんが洋服に着替えたのでしょう。

ここで縮こまってる場合じゃない!

そう頬をペチンと叩いた私は、彼女を迎え入れた。


「遅くなりまして申し訳ございません。

ミリアさん、この服で問題ないでしょうか? いまいちどれを着ていいかわからなくて」


 目の前には、クールビューティーという言葉が似合うほどに綺麗な姿になったカリナさんがいました。

私が黒のゴシック服を着ると、子供みたいに見えるんですけどね。

でも彼女のスレンダーでプロポーションの整った容姿は、銀髪と相まって大人って雰囲気です。

まさに、黒い白鳥って感じがします。


「おぉ、カリナさん。いやぁ、また驚かされました。どこかのご息女ですか? 知らずに失敬致しました」


 ママとパパは、彼女の美しさに思わずそう発した。

無理もない、知らなければ私もそう思ってしまいます。


「いえ、私はど……んぐ!? ミリアさん?」


 私は急いで彼女の口を塞ぎ、役人の娘だと偽りの説明をしました。

なんとか納得してくれたみたいで、とりあえず事なきを得ます。


「さ、料理ももうすぐ出来ますから! みんな席に座ってて!」


 カリナさんの背を押し、席に座らせた私は、台所に戻り調理を再開させた。

いつも以上に雑に作っている理由は、早く食べ終えさせてパパたちとカリナさんを離さなきゃいけないからです。


__夕食後__


 ふぅ、なんとか食べれないことはない程度には美味しく作れました。

パパもママも色々文句は言ってきたけど、完食してくれました。

ですが、一つ問題があって……。


「カリナさん、娘の料理が口に合わないんですか?」


 料理に一切手をつけず、じっと座っている彼女にママは少し不機嫌なトーンで言葉を漏らしました。

なんか雰囲気がヤバくなってる気がします。


「カ、カリナは昼にご飯をたくさん食べちゃったんですよママ! だから、怒らないでママ」


「そうなの? でも一口ぐらいは召し上がって欲しいわ。ミリアちゃんが折角作ったのに」


「食す気はあります。ですが、私は皆さん済ませた後に召し上がらなければ失礼だと思いまして」


 そのセリフに私はやっと彼女の行動に合点がいきました。

使用人や奴隷は基本的に、雇い主が寝静まった後や夕食後を終えた後に1人で食すと聞きます。

恐らく彼女は、並んで食事をするというのが習慣になかったのでしょう。

私は彼女に耳打ちし、食べていいことを教えました。


「わかりました。では失礼していただきます。もぐ……おいしぃ」


「なっ!? カリナさんあなた何をしているんだ!」


 やっと口にしてくれて安心と思ったら、またしても問題が発生。

カリナさんが手掴みで料理を口にしたのです。

パパとママは怒鳴るというよりは、引いたような感じでそう言葉を発しました。

言うまでもなく多分、イヴァンにそう教え込まれてきたのでしょう。

あー、今度は何て説明すれば良いのでしょう?

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