第47話 イヴァン、王宮に召喚される

 王都に呼ばれるなど、久しぶりだな。

私(イヴァン)にまた、褒美か官位をくださるのだろう。

まったく、ここまで来るのに時間がかかったものだ。

三男として生まれた身ではスペアとしても扱われない。

実力はあっても長男と私とでは貴族としての格は、宝石とその辺の石ころほど違う。


 で、あるからして私は上2人の兄をある男と協力し処分した。


「やーイヴァン、どうだったあの不穏分子の2人は。俺とお前のコンビだ、失敗なんてないだろうがな」


 私と共に王都に召喚されたクロノス。こいつとの付き合いもあの時からだが、お互いふくよかになったものだ。


「もちろん、その件は無事終わったに決まっておる。お前が転移魔法で数千ものゴブリンをあの洞窟に送りこんだのだからな」


 そういうとクロノスはちょび髭を触り、肩を組んできた。


「そうかそうか。これでまた俺たちの野望も計画通り進むってもんだなぁ。でも、お前の所にいたあのダークエルフのペット。ワンチャン死んでるかもしれんぞ? いいのか」


 まったく、お互い白髪が生えたというのにクロノスは年甲斐がない。


「あのような雌犬ごとき、いくらでも替えは手に入るだろ?

それより、少し声が大きいぞ。ここは王宮の前だぞ? 誰が盗み聞きしているかわからんだろうが」


 そういうとクロノスは慌てて肩の腕を離し、周囲を見渡した。


「なんだよビビらせやがって。いねぇじゃねえかよ見てる奴なんて」


 私はため息を吐き、無言で先に進んだ。

魔法使いとしての腕は当代随一のクロノスだが、頭の出来は少々よくない。

まぁ、頭が良ければここまでこいつを操ることはできなかっただろうからな。

仕方ないといえばそうなのだが、計画を達成した後は速やかに処分せねば。


◆◇◆◇◆


「クロノス、イヴァン! 王座の間へ入れ!」


 扉の左右に佇む近衛兵は鞘から剣を抜き出し、そう発した。

中へ踏み入れると、カエサルの座る玉座の左右にも近衛兵が配置されており、同じように鞘は空だ。

私とクロノスはこの部屋の中心地点まで進み、頭を下げゆっくりと膝を床に着ける。


「うむ、面を上げよ」


「はっ! イヴァン、クロノスここに国王へ拝謁致します」


 私はまたしても数秒かけて頭を上げる。

カエサルは頬についた傷をさすり、こちらを見下ろした。


「イヴァン、変わりはないか?」


「はい、二日ほど前までは腰の痛みが酷く立ち上がれないほどでした。しかし、陛下に召喚されると聞くと立ちどころに治りました。こうして自ら捕らえた獲物をお届けする事も出来た次第でございます」


 使いの者に合図を送り、私は狩りで捉えた猪を献上した。

玉座の隣の近衛兵が使いの者からそれを受け取り、カエサルに見せる。


「ふむ、元気そうで何よりだ」


 口調とは異なり、起伏のないトーンでカエサルはそう話す。

はっ、いつまでも最強ではないぞカエサル。

隣国との戦いで一万人を撃破したとはいえ、それは昔も昔だ。

いくら無敵とはいえシワが増え、筋肉が衰えた貴様はせいぜい中級剣士といったところ。

今に見ておけ、貴様のその玉座に座るべき真の王は誰か、思い知らせてやるわ。


「本筋に入ろうイヴァン。先日、スマインという貴族が町で暴れたそうだな? 

また、盗賊たちの中にも身分の高い者がいるという噂を聞く。

この国の腐敗も極まってきており、そろそろ大規模な改革をせねばと思っておるのだが、そなたに聞きたい」


 やはりその件で呼ばれたか。

いずれこういう事態が訪れると踏んでいたが、この物言いならまだ時間稼ぎができる。


「はい、なんなりと」


「ギルド制度の修正を図りたいのだが、いかがかな?」


「陛下、あれは貴族権威の象徴でございます。国を統治する者たちの実力を可視化する事で、民の反乱や盗賊の抑制になっているのです。

また、僅かな報酬にはなりますが民への救済にもなっているのですよ?」


 本当は建前だがな、がはは。

貴族どもが権威を楯に豪勢な生活をすればするほど国の財政は圧迫し、民も飢える。

そうなれば一番ヘイトを買うのは誰か?

そう、この国を統べる王であるカエサルだ!

あと数年も経てば民は我慢の限界に達し、次世代の王を求めるだろう。

その時こそ、私の時代が来るという訳だ。

そのためにも、もう少し貴様には愚かでいてもらわなければな。


「だがな、そのギルド制度も民は中級までしかランクを昇格することができないだろ?

それでは生活の報酬としては微々たる者だ。

となれば、裾野を広げ民も上級へ昇格できる権利を与えるべきだろう」


 たまに呼ばれてはこの事で嘆いてくるが、今回はやけにしつこいな。

仕方ない、使いたくない手だがこれで何とか凌ぐか。


「陛下、それであれば一つ進言したい考えがあります。お聞きくださるでしょうか?」


「うむ、申せ」


「はっ! ギルド制度を改革すれば、民も生活費程度の報酬を受け取れ救済となるでしょう。

しかし、上級昇格を許せば貴族権威も失墜しかねません。

そこで、私に一年ほど熟考する猶予をもらえませんでしょうか?」


「いいだろう。イヴァンとクロノスにギルド制度改革の計画を任せる。

ただし期間は半年だ。1年は流石に長すぎるだろう」


「はっ! かしこまりました」


 馬鹿が、簡単な交渉術に騙されやがって。

剣の実力以外はこいつも頭が悪いようだ。

計画ももはや最終段階、半年も実行の準備があれば十分だ。


「話は終わりだ。下がって良いぞ」


「はっ。陛下もよくよくお元気で(最期の年を)お過ごし下さい」


 この時の私は、まさに計画がトントン拍子で進み、帰りの馬車では笑いが止まらなかった。

だが、この喜びもあの不穏分子暗殺の失敗が知られるや否や、急変する。

ここまで積み上げてきた年月を、ゴミ共に邪魔をされてたまるか。

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