第37話 ミリア、魔闘器を渡す。視点、ミリア

 冒険者になる前の私は、1人でどこかへ行くことはできませんでした。

どこか遠くへ行きたいと思えば、走ることもなくただ馬車に乗せられる。

好きな服、家具、アクセサリー。

全て願えば父と母が用意します。

学園でも常にチヤホヤされ、酷い思いはしませんでしたが、家と変わりません。

どこか退屈になっていく日々。


 暇を紛らわすため、私は色々な本を漁りました。

その時に冒険者という、心が躍るようなワードを見つけました。

父と母の反対を押し切り、ギルドに入会した私は勇者パーティーに誘われました。


◆◇◆◇◆


 クエスト中のとある日。


「ミリア! なんて美しいのだ。俺と今晩どうだ?」


 カリブさんは接しずらいですが、戦っている姿はさすがだと尊敬していました。

ですがやはり、このような迫り方をされたことがない私は、どう拒否すればいいかわからず黙り込んでいました。


「カリブ、あっちで美女がモンスターに襲われてたぞ。助けに行こう」


「なんだとシュン! 助けてやればお礼に、ぐふふ。行くぞお前ら!」


「ミリアさん、さぁ行こう」


「ありがとうございます」


 このようにして、毎回シュンさんに助けられていました。

両親の反対を拒んでまで入ったギルド。

なのに私はワクワクというより、自身のドジさを感じていました。


 戦闘では活躍できますが、家事も身支度もまったく1人でやったことがなかったんです。

いつもいつも、出発が少し遅れるのは私が原因でした。

生活をまともに出来ない自分というのがショックでしたが、そんなパーティーで安心感を持たせてくれる人がいました。

それがシュンさんです。

彼は戦闘を出来ず、雑用をよく頼まれていました。

能力がない人はたとえ生活力があっても上手くいかない。

その事実がダメな私にとって自分を肯定的な気持ちに戻してくれます。

だから私はシュンさんと仲良くなれたし、パーティー生活がつまらないわけではなかった。


 しかし、勇者パーティーからシュンさんがいなくなってから気付きました。

私は何も変わろうとせず、下に見える相手を見つけて満足しているだけだと。

助けてくれていたシュンさんが辛い立場にいたのに、私はただ自分のことだけ考えていただけです。


 それからカリブさんの当たりがキツくなったのもあり、私はパーティーを抜けてからは1人でぼーっと暮らしていました。

その日々の中、シュンさんの活躍が耳に入り私は置いてかれたと思いました。

罪悪感を感じながらも、変わろうとしない私と反対に、現状を打開しようと努力していました。


__現在__


 縄を伝い降りてく彼を見て、私は思った。

自分も変わりたいと。

置いてかれたくない、彼と一緒か数歩後でもいい。

彼を真似て、私も強くなりたい。


「ミリアさん、うわ、パンツ見えちゃうよ?」


「構いません。私も行きます!」


 私は縄を掴み、シュンさんの後に続いた。


__数分後__


「はぁ、はぁ。流石に往復はきついね。でも、早く行かなきゃね」


 シュンさんは肩で息をしながらも、カリナさん達のいる方へ足を進めました。


「待ってくださいシュンさん。これをどうぞ」


 私は懐から魔闘器を取り出し、彼に渡した。

戻るなら戦いはどちらにしても避けられません。

ならば、戦えないシュンさんでも使えるものをと持参した魔闘器。


「ミリアさん、俺魔法が使えないからこれもらっても」


「その魔闘器は魔法を使いません。MPのみです」


「MPだけを使う魔闘器? つまり、攻撃はできないってこと?」


「足にそれを付けてください」


「こう?」


 靴型のこの魔闘器はMPを供給すると量に比例して飛ぶことができる。

普通は消耗が激しくて使えないと言われ、魔法使いの間では子どものおもちゃと言われているらしいです。

けど、シュンさんの人並み以上のMPならきっと。


「うわぁ、危ないミリアさん! どいて!」


 シュンさんは慣れない浮遊に加減がわからず、私にダイブした。


「きゃぁ!」


 シュンさんに私、押し倒された?

衝撃で飛び込んだと分かっていないのか、胸を揉んでくる。

時々くすぐったさを感じる部分に手が触れて、私は出したこともない声を漏らしてしまいました。

早く気づいてシュンさん!


「あぁ! ごめん! 悪気はないんだ許して!」


「大丈夫です。使い方を教えなかった私のせいですし」


 落ち着いて、これは驚いて鼓動が早くなっただけです。

ただ私はシュンさんに近づきたいだけ…それだけです。

いや、近づきたいというのはそういう意味ではなく。

って何で私、自分に釈明しているんでしょうか?


「ミリアさん! この靴の使い方は進みながらコツ掴むから、早く行こう」


「はい!」


 とにかく、今は目の前のことに集中しなさい私!

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