第38話 カリナ、嫌いな耳が窮地を救う。視点、カリナ

 私は左右から迫るこん棒に対し、跳躍して交わした。

交差する丸太のような腕を足場にし、双剣を頸部に刺し込んだ。

かれこれ2桁はこいつらを葬っているが、減る気配がない。


「グルァアアア」


 数体倒せばまた奥から増援が来る。

仕方ない、あの技は使いたくはなかったが...。

私は親指から血を垂らし、双剣に付着させた。


「同化しろ、人器一体魔法...カマイタチ!」


 双剣が腕に溶け込むように入り込む。

リミットは3分だが、この数なら問題はない。

私は屈んで走り出す構えを取りつつ、刃を作る。


「いくぞ!」


 目の前で振りかぶるゴブリンキングを素通りし、踵から作り出した刃で頸椎を打ち砕いた。

関節から飛び出す無数の刃によって通り抜ける彼らを瞬時に沈黙させる。

最後の一体は右腕から射出した刃を凌いだ瞬間を狙い、顔を掴んだ。


「これで...終わりだ」


 手のひらから刃を突き出し、ゴブリンキングの頭蓋を貫いた。

仰向けに倒れ込む肉塊から私は刃を抜き取り、背後を眺める。

見積もっても30体はいたようだな。

手向けにこれだけ道連れにできれば悔いもない。

壁に寄りかかり、倒れ込むように座ると両腕から刀身の消えた2本の剣が浮き出る。

どうやら時間切れのようだ。


「グルァアアア」


 気を抜いた私の前方からまたしても無数のゴブリンキングが出現する。

さらに、先ほどまでより数が多い。


「嘘...だろ?」


 思わずそう言葉を吐く。

計画書に書かれていた洞窟の規模と棲息するゴブリンの数があわなすぎる。

これほどいれば入口で既に接触していたはず。

もしかして、転移魔法で別の巣穴から奴らを送り込んでいるのか?

私に隠してまで手の込んだ作戦とは...ははっ。

どうやらイヴァンは私より先に私の心を疑っていたのかもしれないな。

流石の私でももう力尽きた。

それに握ったとしても、剣はもう使えん。


 私は接近してくる彼らから諦めつつも後ずさった。

しかし、その歩みも数メートル進んだ所で止まる。

背後を見るシュエリーを落としかけた穴があったのだ。

飛び越える気力も残っていない私にはもはや、どちらで死ぬかの2択しか残されていない。

奴らに殺されるか、自分でこの針穴に落ちるかの2つだ。

さて、どちらを選ぶか。

明確な死に際を悟るとゆっくりと時を刻むような感覚に陥る。

迫る群れの足取りの一歩一歩がまるで静止しているかのように思えた。


「カリナ! 私のこと掴んでお願い!」


 その止まったような時間を消し去ったのは、聞き覚えのある声だった。

五感が鋭くなっていた私にはとても鮮明にそれは耳に入り、同時に頬を雫が伝う。

振り返ると、彼女がこちらに勢いよく飛び込んできた。


「何して...いるんですか! シュエリーさん」


 私は穴の中に身を投げ入れた彼女の足を間一髪で掴んだ。


「そのままお願い、あともう少しだから」


「シュエリーさん、私は敵なんですよ? この手を、信用しないでください」


 彼女の命は私のこの両腕の力加減1つでいかようにもなる状況になっている。

突然現れて、殺そうとした相手だとわかっているにも関わらず何故こんなにも。

こんなにも私のこの掴む手に頼り切っているんだ。

人を殺め、裏切ったこの手はなんでシュエリーを離そうとしない?


「グルァアアア」


「シュエリーさん!」


 私は最後の力を振り絞り、彼女を穴から引き揚げ遠くへ飛ばす。

ゴブリンキングの群れの方へ視線をやると、石斧を何本もこちらへ投擲してきていた。

回避不能、避けれない。


「ブラスト!」


 目を閉じた私は身体を貫かれる衝撃に備えていたが、何も起こらなかった。

それもそのはず、突風によって石斧はゴブリンキングの数体に突き刺さっていたのだから。


「シュエリーさん、どうして」


 振り返れば、彼女は杖を構えていた。


「言ったでしょ、困ってたら力になるって。それに、あなたの行動よりその耳の方が素直なんだもん」


 彼女はそういって私に笑いかけた。

どうやら、また私の意思に反してこの長耳は反応していたようだ。

嫌いだったこの顔のパーツ...こんなにもあって嬉しくなる日が来るなんて思うもしなかった。


「泣いてないでほら。カリナ、こいつら一緒に蹴散らすわよ」


「......うん!」

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