第36話 ミリア、矢を飛ばす。視点、ミリア

「これは…凄まじい破壊力ですね…」


 私は自分の目を疑った。

この洞窟の上は崖があって、少なくとも人が落ちたら助からないほどの高さはある。

その分厚い天井をくり抜いたようにこんなすっぽりと、ぶち抜けるものなのでしょうか?


「あら、勇者パーティーだったのに知らなかったのねミリアさん」


 知らない。

この魔法を使えるのに、なんで今まで隠していたんでしょうか?

私はシュエリーさんの言葉に反応できず、呆気に取られました。


「ごめんねミリアさん、俺の魔法は威力を落とせないからさ。

上方向にしか使えないんだ。

だから今まで役に立たないと思って、言わなかったんだ」


「そうだったんですね。あはは」


 威力を落とせない…か。

たしかに、このパワーを制御できないなら発動はできません。

しかし、活かそうと考えれば何かしら戦いで使えることもあり得るやもしれない。

でも、あのパーティーでシュンさんがそういう前向きな思考になれないのも無理はないです。

私がもっと、助けられてばかりじゃなければよかったんですよねきっと。


「で、穴に来たはいいけどどうやって登る?」


「そうねぇ、私も杖がないから魔法は発動できないし」


「縄を矢と共に飛ばせば行けるかと」


 せめて、今度こそはシュンさんのお役に立ってあげたい。

私は返しの付いた矢を、縄と共に頭上高くへと放った。

矢が見えなくなって数秒、縄を引くとそれ以上伸びなくなる。

よし、とりあえず矢は地上に届いたみたいですね。


「さぁ、行きましょう!」


「シュエリーさん、先に行ってよ」


 シュンさんは杖を失って戦えないシュエリーさんにそう言います。

順番的に最後だと、モンスターに襲われる可能性があるからです。


「嫌よ。シュンがパンツ見ようとしているの見え見えなんだから」


「はぁ!? そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」


「じゃあシュエリーさん、私が後ろに付きますから」


 私は彼女にそう言い寄るが、それでも首を縦に振らなかった。


「嫌よ。ミリアさんだって見られちゃうでしょ!」


 私のパンツを、シュンさんが…。

でも、私なんかのを見ても別に。

恐る恐るシュンさんを見ると、視線を反らして耳を赤く染めていました。


「じゃあ、どうするんだよ!」


 シュンさん、私のこと気にしてくれているんですね。


「私が1番最後でいいわ。あなた達が先に言ってちょうだい」


 シュエリーさん、自分が一番危ないのにどうしてそこまで先に行きたくないんでしょう?

わかりませんが、彼女の堂々とした立ち振る舞いを見ていると羨ましく感じてしまう。

自分が魔法を使えないという状態でも、臆したり、慌てないなんて。

私とは大違いで、だからシュンさんも彼女とパーティーを組んだのでしょう。


__数十分後__


「さ、ミリアさん手を」


 私はシュンさんに引き上げられ、崖の上の地表に到達しました。

縄を登るのは握力も体力もかなり消耗するようで、呼吸を整えるのにしばらく時間がかかりそうです。


「あれ、シュエリーさんは?」


「あ!? そういえば途中から気配が消えたような」


 私とシュンさんは疲労した身体を無理矢理起こし、穴の下を見つめた。


「シュエリーさん! なんで登ってないんだよ!」


 シュンさんは、縄の下でこちらを見上げる彼女に声を張り上げた。


「いいから! あなた達はギルドに戻って報告しなさい! 私は縄登るの体力的に無理だから、他を当たるわ!」


「危ないですよ! シュンさんの魔法で地盤が脆くなって崩落する可能性があります!

長居していては…」


 私がそう話しかけるも、シュエリーさんはもうそこにはいませんでした。

どうして彼女は登らなかったのか?

その答えは何となから察しが付きますが、どうすれば。


「シュエリーさん、きっとカリナさんのことやっぱりまだ気にしているんだ!」


 私は縄を掴もうとするシュンさんを手で引き留めた。


「危険ですシュンさん。

崩落の可能性、ゴブリンキング、命を狙う暗殺者。

この洞窟に再び入ることはおすすめしません。

最善策はギルドに急いで駆けつけ、援軍を要請することしか」


 シュンさんは私の手をそっと離した。


「ミリアさん、俺思い出したんだ。

何で冒険者になったかを。

俺は、貴族のみんなを見返してやるためにここにいる。

そのためには、仲間を見捨てるなんてできないんだ」


「あっ待って!」


 シュンさんは引き止める私の声を振り払って、縄を伝い降り始めた。

あぁ、私は何でこんな彼に差をつけられたんだろう。

安心感を持っていたシュンさんにいつのまにか、抜かされていた。

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