第35話 シュン、壁の出っ張りを触る。視点、シュン

 俺とミリアさんは洞窟の入り口付近まで戻っていた。

後ろを振り返るが、カリナさんの気配はない。

どうやらゴブリンキングに手こずっていると推測できる。

あの身体能力なら、とうに追いついてもおかしくないからな。

にしても、なんでカリナさんは俺らのこと…。


「シュンさん! どうしましょう?」


 困った表情でミリアさんに話しかけられ、指された方を見る。


「あぁ、入り口が…なんで塞がって」


 いくら落盤したからといって、あの大きな入り口が隙間もないほど埋められているなんて。

もしかしてカリナさんが?

でもカリナさんはずっと…。


「シュンさん、これは予想です。

仮にこの大岩を退かしても、容易にはここから脱出出来ないかも知れませんよ」


「え、なんで? まさか…」


「殺しにきているのがカリナさんだけじゃない、ってことよね」


 そう言いながら落ち着きを取り戻したシュエリーは、俺の肩を叩いて下すよう促す。

カリナさんの所に引き返そうという感じでもないのかな?

俺はいつでも捕まえられるよう警戒しつつ、華奢な身体をゆっくりと降ろした。


「あ、挨拶が遅れました。私、ミリアと言います」


「私はシュエリー、シュンとパーティーを組んでいる者よ。よろしく」


「あ…はい…」


「で、ミリアさんはどうしてここに?」


 そういうと、彼女は少し暗い顔をしながら口を開く。


「はい。私はシュンさんが勇者パーティーを抜けてからカリブさんが過度なスキンシップをですね。

されてきまして、耐えかねて抜けてきたんです。

それから、今更ながら私はずっとシュンさんに守っていただいたのに、何もできなかったことがずっと…その」


「もう大丈夫だよミリアさん。俺は別に好きでやっていただけだからさ」


 カリブが俺をパーティーに戻れと言った意味、大体読み取れてきた。

ミリアさんにパーティーに戻って欲しいけど、俺がいないと帰らないと判断したのだろう。

ということは、勇者パーティーはカタリナさんだけが残っているんだな。

大丈夫かな? 集会所で会った時も暴力振るっていたし、ミリアさんがいないとなると余計に心配だ。


「すすす、好き!? シュンさん、私のこと…その、好き!? えー!?」


 ん? なんかミリアさんの顔がとても赤いけどどうしたんだろうか?

俺、別に変なこと言ってないよな?


「はぁ、シュン! あなた女の子を誤解させる天才ね」


「な!? 何言ってるんだシュエリーさん!?」


 慌てる俺を見てシュエリーさんは鼻で笑う。

そして、ミリアさんのふくよかな胸部に小さな後頭部を乗せた。


「ミリアさん、あいつの口車に騙されちゃダメよ。好きにしてただけってのは”カリブから守ることを”って意味よ多分」


 冷静な口調でいうシュエリーの顔を見て、ミリアはため息をついた。


「な、なーんだ。そうだったんですね、早とちりでした」


「ミリアさん、さっきより暗い顔していない? 大丈夫?」


「あははイェーイ。問題ありまっせーん!」


 その言葉が続いている間は見事なスマイルを作っていたが、終わるとまたしてもどっと暗い顔に戻った。


「シュエリーさん! どういうことなんだよこれは! いてっ!」


 シュエリーに説明を求めるも、脛を蹴られ撃退されてしまった。

脛を押さえながら伺うように彼女の方を向くと、いつもの膨れ顔がそこにはあった。


「鈍感バカ」


 えー、俺が悪いのこれ?

何とも言えないムードがしばらくこの空間を支配していたが、開口一番で空気を変えたのはミリアだった。

先程までと打って変わって真剣な顔つきになっていた。


「そうねぇ、入り口を壊してもカリナさんと同様に敵がいるかもしれないってことだし。四面楚歌ね」


「シュエリーさん、敵ってそんな言い方! まだ決めつける時じゃないでしょ!

…誰かに操られてるかもしれないのに」


「シュンさん! カリナさんという方のことはご存知挙げませんが、このクエストどういう内容で受けましたか?」


「どういうって、勇者パーティーが断念したゴブリン退治。

難易度中級の…だった気がする」


 あ、でもゴブリンキングが出現していた。

勇者パーティーが先行していたらその報告が追加で内容に書かれているはず。

なのにないってことは…。


「恐らく、今シュンさんが察している通りです。

私が駆けつけたのも、難易度上級のこのクエストをお二人が受けれたからというのもあるんです」


「そんな、信じたくない。

カリナさんは今までずっと俺たちのこと…」


 落ち込む俺に、シュエリーさんはそっと肩に手を添えた。


「仕方ないわ。とりあえず、ここから脱出してギルドに状況を報告することが先決よ」


 シュエリーさん、俺よりもカリナさんとあんなに仲良さそうにしてたじゃないか。

なのに、こんな冷静に判断して本当にもう割り切れたのか?

俺はできない…けど、どうすれば。


「お二人とも! 他に出口がないか、探してきます!」


 ミリアさんは降ろしていた矢筒を再び背負い、走り出そうとした。


「ちょっと待った!」


「え!? きゃあ!!!」


 シュエリーに背側の布を引っ張られたミリアさんは、彼女の身体と絡まるように倒れ込んだ。

彼女の矢筒が地面に先に到達したこともあって、怪我はないように見える。

しかし、2人は何故か知らないが服がはだけて霰もない姿になっていた。


「あ、危なかったわね。

ミリアさんごめんなさい、あなたのお胸に助けられたわ」


 シュエリーさんの顔は、彼女の谷間に埋められていた。


「いえ、お怪我がなくて何よりです。

それよりどうして止められたのですか?」


「シュン、こっち見ないで!」


 うぉっ、無意識に光景を目で追ってしまっていたか。

俺は視線を反らし、壁の出っ張りを触った。

別に、この出っ張りをミリアさんならあれだと思っているわけではない。


「シュンが最初に大技で穴開けた場所があるじゃない。あそこから出れるんじゃないかしら?」


「大技?」

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