第22話 シュエリー、アシアを倒す。視点、シュエリー

 私は、ゆっくりと一歩を踏み出そうとするアシアと対峙している。

甘い汁という発言、貴族の剣術が使える盗賊の頭。

怪しいわ、少なくとも普通の盗賊じゃない。


「瞬足の剣、ハヤブサ!」


 私が気を引き締めて挑もうとしていると、アシアは分身した。

いや、分身というよりアシアの剣術スキルによって俊敏性がアップしたのだろう。

しかし厄介な速度ね。

私は何度もブラストを放つが、全て彼の残った影に当たるだけだった。


「どうした嬢ちゃん、悪あがきは終わりかい?」


 アシアが私の背後に周り、斬りかかる。


「ふん、かかったわね」


 当たらないなら相手が現れそうな位置にあらかじめ魔法陣を展開すればいいのよ。

背後をとったアシアに私はフラッシュを浴びせた。


「しまった! 危ねえ」


 目を瞑ったアシアに杖を振り落とす。

しかし、片目を無理やり開けた敵は何とかそれを回避し、素早い身のこなしで距離をとった。

魔法陣を展開すると遅くなるから、杖でダメージを与えようとしたのに。

それでも追いつかないなんて、てこずるわねこれは。


「へ、やるじゃん。俺ももう手加減しねぇよ」


 私はシュンにウインクをした。


「わ、わかった」


 シュンは慌てて私の肩に手を置くと、MPを流れ込ませてきた。

よし、これでまた戦える。


「おい細身の男! お前恥ずかしくないのか? 女に戦わせてよ」


 アシアが煽ると、シュンは俯いた。

やばい、シュンが落ち込んだ表情を見せたらあの作戦の効果が薄れる。

私は彼に耳打ちして、弟子と師匠という設定を伝えた。


「え、そんないきなりいわれてもできな......いてっ。わかったよ」


 私がシュンの脛を軽くつき、威圧した。

するとため息を付いた後、棒読みで彼は口を開く。


「えー、よいか弟子よ。こんな相手に勝てないようじゃ、まだまだあの技を伝授するのは難しいぞ」


「はい! お師匠様、私頑張ります!」


 私とシュンがわかりやすく大声でそう会話するとアシア含め盗賊たちはキョトンとした。


「さ、かかってきなさい! あなたの攻略法はもうわかったわ」



「何だが知らねえが、2人で戦わないこと後悔すんじゃねえぞ! ハヤブサ改!」


 アシアがそう発すると、今度は幻影が私の周りを取り囲んだ。


「シュエリー!」


 今までの比ではない数の幻影にシュンは思わず駆け寄ろうとしてきた。


「大丈夫よ! 私は上級魔法使いになるんだから、こんな相手ぐらいやってやるわ!」


 私は杖を構え、魔法陣を展開した。

光と水の魔法を組み合わせて...。


「合成魔法! シャボンフラッシュ!」


 杖から無数の小さなシャボン玉が溢れ、私の周囲に広がった。

シャボン玉はゆっくりと周囲に展開し、アシアの幻影に接触する。

弾けるシャボン玉にアシアは一瞬動揺するが、すぐに立ち直る。


「なんだこれはよぉ。

ただの目眩しか? こんなもので俺を捉え切れるわけないだろ!」


 幻影の集団は徐々に私に詰め寄る。


「くらえ! なんだこれ、目が!」


 振りかぶるアシアの腕にシャボン玉が当たると今度は閃光が発生した。

やった、成功したわ。


「クソが! 何なんだよこのシャボン玉!」


 距離をとったアシアだが、シャボン玉に触れ目を思わず閉じる。


「ふん、それはハズレよ。お馬鹿さん!」


 私は杖でアシアの股間を勢いよく突いた。

敵は両手で股間を押さえながらこちらを見上げた。

やったわ、ほぼ1人で勝った。


「ちくしょう、中途半端な魔法使いやがって!」


「ふん、この天才の私がそんな魔法使うわけないじゃない。

わざと当たり外れを入れて、油断を誘ったのよ。

当たって閃光したら、相手の目を瞑らせられるけど私も眩しくてちゃんと攻撃できないしね。

あえてハズレを入れることで隙を作ったって訳」


 私がドヤ顔で見下ろすと、アシアは頭を激しく振り怒りを表した。

そんな顔をしても今のあなたは何もできないというのに。


「すごいよシュエリーさん!」


 シュンはまた私に駆け寄ってきた。

まぁ、まだ戦闘中だけど許してあげますか。

私は目を輝かせる彼に「ふふん」と鼻を高くした。


「さ、盗賊さんたち観念しなさい。

リーダーはほら私の力にひれ伏したわよ? て、あれ何かしらこれ髪の毛?」


 私はアシアの耳を掴んだつもりがどうやら髪の毛を掴んだようね。

にしても量が多いような、戦闘不能なのに酷いことしてしまったわ。

ま、いいでしょ。

ポイっと私がアシアの抜けた髪を捨てると、シュンは鬼気迫る顔で近寄ってきた。

え、何?


「危ないシュエリーさん!」


 私は彼に突き飛ばされた。

なんかデジャブを感じた私は突き飛ばされながら体勢を立て直しシュンの方を向いた。

すると、禿頭のアシアの腕を彼が掴んで制していた。

そして、シュンは魔力の過剰供給でアシアを倒れさせる。


「シュン! また私助けられたの? はぁ、もう!」


「え!? 何で怒るんだよ!」


「はぁ、ありがとうございました!」


 私は気恥ずかしさで目を逸らし、棒読みでお礼をした。


「はいはい」


 何よヘラヘラして、せっかく今度こそ1人で倒そうと思ったのに。

嫌じゃないけど、納得がいかないわ。

まぁ、嫌じゃないけどさ!


「シュエリーさん、こいつ手強いよ」


 不貞腐れる私にシュンは真剣なトーンで声をかけた。

アシアを見ると、泡を吹きながらも執念で立ち上がっていた。


「お前ら! こいつらを絶対に生きて返すな! じゃなきゃ俺がお前らを殺すぞ!」


 どうやら、禿頭を見られたのが地雷だったようね。

シュンのMP過剰供給でも立ち上がるなんて、髪の恨みは恐ろしいのね。


「シュエリーさん、こいつらヤバいよ! どうするの!」


「どうするってそりゃあ、これでしょピース!」


「こんなにキレてる相手に脅しが効くわけないでしょ!」


「いいからそれしかないんだからやって!」


「わかったよもう。マナよ集え、そして力となれ。

バスター!!!」

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