第21話 アジトに突入。視点、シュエリー
私が扉を開けると、それはそれはむさくるしい盗賊さんたちがお出迎えしてくれました。
「なんだい嬢ちゃん。もしかして、冒険者かい? よくここがわかったねえ」
盗賊の1人がこちらに近寄り、私に迫ってきた。
なまくら刀を肩で叩き、こちらを鼻で笑っている。
どうやら、私の実力を見くびっているようね。
「弱そうなあなた達に警告するわ。
私たちは先ほどあなた達のお仲間を捕まえてギルドに引き渡したところなの。
だからあなた達も観念して、素直にお縄につきなさい」
ふん、決まったわ。
これで捕まれば余計な手間はとらなくていいもの。
「ふはっ。聞いたかよみんなぁ、このガキ爆笑もんだぜ」
笑い転げたり、腹を抱えながら盗賊たちは舐め切った態度で応えてきた。
いいわ、強硬手段のほうが私も好きだもの。
「さ、お嬢ちゃんこれから地獄の時間だよ。君はこれから逆に俺らに捕まって、どっかのゲス野郎の慰み者になるんだ」
男が刀をちらつかせながら、私に詰め寄る。
「シュエリーさん、気を付けて!」
シュンは私を心配したのか、肩に手を置いた。
私は目配せをしてその手をどけさせる。
彼の力を使えば魔力消費を考えずぶっ放せるけど、それじゃ意味ないのよね。
私が1人でもある程度強く見えないと、あの作戦は決まらないわ。
「さ、その顔を絶望に染めてあげるからねぇ...て杖がお腹に? おまえまさか魔法」
私は男の腹に杖を突きつけ、魔法陣を展開した。
「風のマナよ集え、ブラスト!」
「ぐはっ。こんの、アマ」
杖の先から放たれた凄まじい勢いの突風は、男を後ろのグランドピアノに衝突させる。
「ガシャン」という鍵盤の音と共に、男はグランドピアノから崩れ落ちて倒れた。
「どう? 少しは信じたかしら」
ふふん、所詮は盗賊ね。
ただ力に任せた攻撃しかできない素人集団が、私に勝てる訳ないわ。
まぁ、今までソロでこなせるクエストしかしてこなかったし場慣れにはいい経験になったわね。
盗賊の驚きように私が相手の降参を確信しかけた直後。
奥の階段からゆっくりと降りてくるその男は、他の盗賊とは明らかに異質の雰囲気をまとっていた。
身なりもまともで鞘のある剣を帯剣している。
「あなたがもしかして、鷹の爪団の頭かしら?」
「いかにも、俺は鷹の爪団の頭アシアだ。おっと髪が乱れた」
アシアは髪を整え、私に話を振った。
「君の実力、先ほど上から拝見したよ。
かわいいフェイスなのになかなかどうして、腕が立つじゃないか」
アシアは懐からリンゴを取り出し、私の方へ投げ捨てる。
「それはどうも。で、このリンゴは何かしら?
あなたの余興に付き合う暇はないの、降参するのかしないのか早く決めて下さらない?」
「ふふ、気が強いねえ。
じゃあ単刀直入に言おう。
君、俺らの仲間にならないかい?」
私はリンゴを手に取り、アシアを見つめた。
「シュエリーさん、お金が欲しいからってまさか変なこと考えてないよね?」
はぁ、シュンはなんて察しが悪いのかしら。
私はリンゴを彼の口に突っ込んだ。
「私もね、ここでかっこよくリンゴを踏みつぶして決めゼリフ言ってやろうと思ったのよ。
だけど、食べ物を粗末にするなんて勿体ないでしょ!」
「だ、だからってなんで俺にやるんだよ! 自分で食えばいいだろ!」
私はシュンの口に入れたリンゴを再び掴みとった。
うん、ちゃんとかじって食べてるわね。
「シュン、身体の調子はどうかしら?」
「いや全然大丈夫。
しいていうなら少し寝不足なぐらいかな......て、食ってる。
もしかしてシュエリーさん、俺を毒見にしたんじゃないだろうな?」
「ん!? んん、んんなわけな、ないんしょ(そんなわけないでしょ)」
しまった、バレた。
私の演技とか作戦に騙され続けたからか、だんだん思考が読み取られてるのかしら。
今度からはもう少し上手くやるとするわ。
「食べたって事は、仲間になるってことだよな?」
アシアはこちらを見つめる。
「いいや違うわ。
あなた達を捕まえてもっと美味しいリンゴを食べたくなったわ」
「そうかいそうかい」
アシアは背中の剣を鞘から抜き取った。
「ここに来たって言うから、甘い汁すすりに来たのかと思ったんだがなぁ。
まあいいや、覚悟しな」
「あの構え、シュエリーさん! あいつ剣術を知っているぞたぶん」
私はしっかりと杖を握り、相手を注視した。
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