第20話 シュエリーの不安な作戦。視点、シュン

「水のマナよ集え、スプラッシュ!」


 その掛け声が、眠気眼で横になる俺の耳に響いた直後である。

頭に水をぶっかけられ、反射的に起き上がると奴がいた。

奴というのはシュエリーさんだ。

まだ朝早いというのに、ひどい起こし方だ。


「まだ時間じゃないでしょシュエリーさん。こんな起こし方してどうしたの?」


「忘れたのシュン。

盗賊さんたちをギルドの人に引き渡すのよ。私だけ出たら失礼じゃない、ほら来て」


 手を引かれた俺はびしゃびしゃのまま馬車から降ろされる。

目の前には褐色肌の透き通った青い目をした女の子がいた。

彼女がギルドから派遣されてきた引き渡し役のようだ。

関係ないけど、シュエリーさんて雑に見えて外面はちゃんと守るんだな。


「お名前なんて言うのかしら、私はシュエリーよ」


「カリナといいます。盗賊を捕まえてくださり、ありがとうございます。

引き続きお願いします」


 2人はペコリと頭を下げた。

顔を上げた営業スマイルの彼女に対して、カリナさんは会ってからずっと無表情だ。

お堅い性格なのかもしれない。


「どうかしました、カリナさん?」


 シュエリーさんはフードが取れて耳に手を当てるカリナさんに、心配そうな声をかける。

耳を気にしているんだろうか?

確かに先がとんがっていて普通の耳じゃない。


「いえ、なんでもありません。では私はこれで」


「はい、さよならぁ。シュンもほら」


 俺は彼女に言われるがまま、手を振りカリナさんを見送った。

しかし、それから数秒後俺とシュエリーさんは手を止めた。

止めたと言うより呆気にとられて意識が回らなかったんだ。

それもそのはずだ。

カリナさんがいきなり、盗賊たちを片手で持ち上げ軽々と歩きながら運び出したのだから。

スレンダーでシュエリーさんよりは少し背が大きいと言っても女の子だ。

とても信じられる光景ではない。


「あはは、すごいわねあの子。

シュン、あの人知っているのかしらぁ?」


 流石の彼女も驚きを隠せないのか、口に含んでいたスープを吹き出した。


「いや、まったく」


「そ、そう。まぁいいわ、朝食が済んだらアジトに行きましょう」


「お、おう」


◆◇◆◇◆


 朝食を済ませた俺たちは、盗賊のアジトがあるという森の屋敷にきた。


「どうやら廃墟になった屋敷に盗賊たちが住み着いてしまったようね」


 シュエリーさんは準備運動をしながらそう話しかけてきた。


「あのさ、俺はまたMP回復すればいいの?」


「そうね、2つ合図を送るわ。1つはこれ」


 そういうと彼女はウインクをした。

どうやらこの瞬きがMP回復の合図らしい。


「それはわかったけど、二つ目って何? 俺はMP回復しかできないよ」


「2つ目はこれ! ピースよ! ピースをしたら空にあれぶっ放しなさい!」


 あれ?

あれってまさか俺の魔法を発動させろってこと!?

シュエリーさんのやりたいことを察したと同時に不安がよぎった。


「もしかしてシュエリーさん、スマインをやったみたいに相手を降参させようってこと?」


 彼女は指を鳴らしドヤ顔でこちらに頷いた。

その姿に俺は苦笑いをするしかなかった。


「さ、開けるわよ!」


「ええ!? ちょっと待った、あの時は気絶してくれたからよかったけどさ。

て、もう扉開けちゃってる!?」


 彼女が勢いよく扉を開けると、ガラの悪い男たちが一斉にこちらを見つめた。

おいおい、本当に大丈夫なのかシュエリーさんよぉ!


「あらあら埃くさい廃墟にお似合いの汚らしい虫さんたちがたくさんいるわぁ」


 開幕早々、彼女は煽りモードに入る。

あ、オワッタはこれ。

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