三周目、萎んだたんぽぽ
「いやはや、青春の一ページをめくったような気分ですね」
マスターは、ゆっくりと、しかし的確に答えた。
「まだまだ始まったばかりですけどね」コウタはそう答える。
「マスターは、恋とか、してましたか」
「私ですか、ずいぶん前の話ですがね、そりゃあ、今みたいにスマホなんてないから、少しずつでしたけど、恋と呼ばれるものは、そりゃあ、してきましたよ」
「そうなんですね、あ、枝豆ありますか」
「おやおや、また“豆”ですか」
「すいません、すきなもので」
「では」
マスターは裏へ行ってしまった。コウタはぼんやりと天井を見つめている。先ほどの尖った口調とは打って変わって、冷静な男に変っていた。ぼそぼそと、独り言をつぶやいているようだ。これで終わったとか、大丈夫だとか、心配だとか、そんなことをぽつりぽつりと。
ザーッ ザーッ ザーッ ゴクゴク 雨音と、コウタが飲料を飲む音が響く。マスターは食べやすいようにと、白いシンプルな皿に塩で味付けしたシンプルな枝豆を用意していた。アンティークな店内からは浮いている存在だったが、コウタは気にもせず食べ始めた。
「コウタ様に聞きたいのですが」
「なんですか」
「私ね、どうもその電車に興味が湧くんですよ、何かあったのではないかと」
「ああ、確かにそうですよね、でも、結局あれは何ともなかったんですよ」
「でも、あなたが教えてくれたタイムリープ、あれと電車は関係があったと前回お聞きしましたが」
「ああ、関係はあったが、正確には、あの駅に行ったから、始まったんだ」「と、いいますと」
「サキが、」
「ああ!サキ様が!」
「そうなんだ。サキが………」
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