第21話

犯人は財務大臣のサイモンさんだった。私があの時逃げ込んだバーの人を捕まえたらあっさり名前が出てきたらしい。




ヘンリーさんはなんか色々と納得してなかったけど、私は事件にそんなに興味が無いので捕まったならそれでいいです。




サイモンさんは借金があって税金で私腹を肥やそうとしたらしく、私達の生活費が無かったのは全部そのせいだった。




「まさかアリエッティさんのご実家の仕送りで暮らしていたとは。不自由な思いをさせて悪かったな。部下の不祥事にも気づけないとは私もまだまだのようだ」




ようやく2人でケイトの両親に挨拶ができた。と思ったら王様から謝られてしまった。


実家からの仕送りが豊かすぎて何一つ不自由しなかったとは言えず。




「私達はずっと、あなた達に会うのを楽しみにしてたのよ。ケイトが自分で家を出てから今まであんまり会話も出来なかったし…」




「え、追い出されたんじゃ」




ケイトの言葉に王様が反応した。




「追い出す?」




ケイトと一緒に馬に乗っている時、彼は家から追い出された時にこちらに初めて来たと言っていた。




「そんなことする訳ないだろ。確かにあの時のお前は最悪だったから叱ったが…」




「父さんはよく最悪って言うんだ。本心というよりは俺らを鼓舞するためだけど」




そうヘンリーさんが教えてくれた。




「あんなにキツイ言い方をしたのは初めてだったかもしれないな」




アリエッティが婚約破棄のショックで私が来れるようになったのだとしたら、ケイトは「父さんにも怒られたこと無かったのに!」みたいな感じでショックを受けちゃったんですね。


ケイトはめちゃめちゃ繊細さんだった。




追い出されたわけじゃなかったという事実には彼も驚いている様子。




「家臣が勝手に見合いを進めていると聞いた時はケイトの意思が尊重されてるか心配だったが、嬉しそうに婚約の報告をしてきた時は安心したよ。こんなに良い子が義娘になってくれて良かった」




嬉しそうだったんだ。


勝手に頬がほころぶ。




「1人で率先して探しに行くし、ケイトは最高の息子だ」




つまり私たちは別に干されてなかったのだ。


なんだ、全部思い違いだったんじゃん。




でもお家がどちらかと言うと質素な感じだったのとあの手紙は?




「俺が、2人きり一つ屋根の下で一緒に暮らしたいって言ったんだ」




そうだったんだ…


感激して見つめ合う私達にヘンリーさんが少し気まづそうに咳をした。




「最初の手紙は鳩に書き換えさせて、その後は全部届けさせなかったらしい。口伝えだったから認識ミスが起こったんじゃないか」




そんなスマホの音声入力みたいなこと起こるんだ…


だから色々とおかしかったんだね。さすがに王様が手紙で☆とかちょっと痛い。




「普通読んだ時点で気づくだろ」




「「いやあ~?」」




二人同時に首をかしげると、なぜかヘンリーさんが頭を抱えていた。




「こんな可愛い2人にあんな目に合わせるなんて、市中引き回しの上に打ち首にすべきだわ!」




女王様の綺麗な見た目と正反対な言葉にびっくりして飲んでた紅茶がむせた。




「重すぎでは!?」




そしてなぜ和風!?




「あら、それならギロチンでもいいわよ」




「ダメですよ!?」




実際はそこまで重くならないらしい。女王様はとてもおちゃめな人だった。




「2人共もっと怒っていいんだぞ?もし殴っても俺が許すし」




いや、殴らないですけど…


っていうか許しちゃダメだと思います。




「蹴ってもいいぞ」




急に武闘派すぎでは?




「お兄ちゃん、罪は絶対に許さないよ。けど、マイナスな感情の矛先を誰かに向けるのはダメだと思うから、俺はやらない」




彼が柔らかな口調で言った。




「夫婦2人揃ってお人好しだな」




私も?そうかな…?




「お兄ちゃん、本当にありがとうね」




ヘンリーさんがケイトを見つめている。




「お前、前は俺の事を避けてたし、名前でさえ呼ばなかったのにお兄ちゃんなんて別人みたいだ」




ぎくっ!


一気に心拍数が上がった。




「本当に別人だったりして」




ぎくっぎく!


ケイトも私も冷や汗をかいている。




「ふふっ、なわけないだろ。とにかく結婚おめでとう。末永く幸せにな」








───色々あったけど、誤解も解けたしこれで良かったのかもしれない。




トコトコと揺れ動く馬車から見える風景はいたって普通だ。だけど、そんな普通が1番良い。




「ねぇ、ケイト」




「ん?」




「大好き」




彼と一緒なら別に特別な事がなくても幸せだ。




「俺もだよ」




何回伝えても、毎回このとびっきりの笑顔を私にだけくれる。




「なんか眠くなってきちゃった」




「そうだね。寝よっか?」




手を繋いでお互いにもたれかかるようにしたまま2人で眠った。

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