第20話

荷台の干し草から顔を出して周りを見渡す。馬車は建物も何も無いような田舎と思われる夜道をゆっくりと進んでいた。




速度的には降りれそうだけど…




アリエッティさんと考えた作戦はこうだ




【とにかく走って逃げる!】




2人で話し合った結果、これしかないということになった。


最後にアリエッティさんから「あなたなら絶対ケイトに会えるって信じてる」という激励の言葉を貰って別れた時はちょっと泣きそうにもなった。




音を立てないように荷台から飛び降り、全力で走った。




後ろも振り返らずとにかく走ったけど、追いかけてくる気配はない。




疲れた…お腹空いた…喉乾いた…お風呂入りたい…家でゴロゴロしながらテレビ見たい…


でも、そんな今まで何回もやってきたことよりも、ケイトに会いたい。諦めちゃダメだ。止まっちゃダメだ。




サー…




この音なんだろう…どっかで川が流れてる?




音の方向に進んでいくと、どんどん音が大きくなる。


霧が濃くて分かりにくいけど多分川だ。




やった!水飲める!




水を飲むと少し元気が出た。




さあ、ここまで逃げてきたけど、果たして私はケイトに会えるのだろうか…




「ララ〜ラ…」




川沿いをゆっくり歩いてみる。




「ラララ〜ラ〜ララ〜」




思はず口ずさんちゃったけどこの曲なんだっけ。




「もしも君が〜泣いているのなら〜私が隣にいるから…」




そうだ、この歌龍人が好きって言ってたやつだ。




「手を取りあって一緒に歩んでいこ…」




その時どこからか足音が聞こえた。


誰!?曲者!?霧のせいでどこにいるのか分からないんですけど!?




「アリエッティ!?」




私を呼ぶ聞き慣れた、でも凄く求めていた声が聞こえた瞬間、心臓がドキドキと大きく音を立て始めた。




「ケイト!?どこにいるの!」




「ここにいるよ!」




霧の中から大好きなケイトが現れた。


嫌だった霧も好きになった。




「ケイト…ケイトだ!やっと会えた!!」




抱きしめたら、ケイトの匂いがした。




「もうアリエッティに会えないかと思った」




ケイトの顔を見たら、目から涙がこぼれた跡の上から更に涙が溢れていた。




「会えたんだから泣かないでよ」




「無事でよかった。本当に、良かった…」




苦しいくらいに抱きしめられる。でも、その苦しさに少し安心した。




「心配させてごめんね。私が蜂に追いかけられたばかりに…」




「蜂?」




ケイトがきょとんとしているのが愛おしい。




「いや、なんか蜂の大群に追いかけられて、逃げてたらなんかバーみたいなところについたからお茶飲んだら気絶して馬車の荷台のところにいて…」




「ちょ、ちょっと待って。え?蜂に追いかけられて逃げてたら誘拐されちゃったの?」




「うん」




急にケイトが俯いて肩を震わせはじめた。




「ふっ、ふははは!」




え、なんで笑ってるの?




「いやー、ごめんごめん。そんな、そんな事あるんだと思ったら、つい」




ケイトは目元を拭った。




「でも、いつも通りのアリエッティで安心した」




笑顔で見つめるケイトを見て幸せだなと感じる。




「あのね、さっき会場で俺に話しかけてきたあの女の人なんだけど、本当に俺は彼女のこと知らないんだ」




「でも元カノって…」




「ケイトにとってはそうなんだけど…」




ケイトにとっては、ってどういう…?




「実は俺、こっちの世界の人じゃないんだ」




えええええええ!


ケイトも、だったの…?




「もしかしてさ、君もじゃない?」




びっくりしすぎて言葉が出てこない。




「な、なんで分かったの!?」




ケイトも探偵…?




「さっき歌ってたあの曲、俺が好きな歌なんだよね」




あ、そっか。さっきの曲この世界にはない歌だし…




まって、ということはケイトは藤島龍人?


仕草とかが似てたのも、似てたんじゃなくて本人だった?


今まで感じていたことの点と点が一気に線になった。




「ねぇ、ケイト…」




あなたは藤島龍人?




「なーに?」




そう聞こうと思った。


けど、別にいいや。


彼が自分の正体を明かしたかったら明かせばいいし。


ケイトが私の好きなアイドルの藤島龍人かどうかはどうでもいい。




「呼んでみただけ」




だって、私が彼を好きなことは変わらないから。




「帰ろっか」




私が馬に向かって歩く。




「待って」




腕を掴まれて振り向かされた。




「その前に」




唇が重なる。




離れて私がはにかむと彼も笑った。




「行こっ」




差し出された手を握ると、自然と恋人繋ぎになった。




「うん」




馬に乗ってケイトの背中に抱きついて見た、夜の景色はとても綺麗だった。

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