第19話

「え〜皆さん、この度は、誠に、え〜成人おめでとうございます」




偉い立場の人と思われるおじ様の来賓挨拶が始まった。


式典が始まってしまったのに未だにアリエッティが見つからない。




もし事件に巻き込まれていたら…


もし危ない目にあっていたら…




ただはぐれただけだと信じたいのに、不安がドンドンあふれ出てくる。




あの女の人はケイトの元カノらしい。そんな事言われても俺自身はあの人のことを何も知らないし、あの時俺はすぐにアリエッティを引き留めるべきだった。ちゃんと説明するべきだった。あの時俺もアリエッティについて行っていれば。あの時、あの時…




「…イト。ケイト。ケイト!」




はっと気がつくと、目の前にはお兄ちゃんがいた。




「青ざめた顔してどうした。それにアリエッティさんは?」




はぐれてしまったことを説明した。




「分かった、俺も手伝う。すぐ終わらせてくるからちょっと待ってろ」




「では、続きましt」




「成人おめでとうございます!乾杯!」




お兄ちゃんが司会の進行さえも遮って一瞬で終わらせて帰ってきた。聴衆は逆にそれが斬新だったのか「かんぱーい!」と盛り上がっていた。




「お兄ちゃんごめんね、迷惑かけて」




「何言ってんだ、当たり前のことしてるだけだろ。謝罪するくらいなら見つかってからお礼してくれ」




「うんそうだね。ありがとう」




俺達は敷地内を探し回り、見かけなかったか色んな人に聞いて回った。


数時間前にアリエッティを城の外で見かけたという人に出会ったが、それ以外の情報は得られなかった。




一体どこに行ったんだ…




「そういえばさっき、お城から遠くないところで女の子が馬車で連れてかれてたって」




「え、マジ?やば、怖すぎー」




「最近誘拐とか増えてるもんね」




服装や話し方から見て平民の女の子達だった。




「ねぇ君達、ちょっとその話詳しく聞かせてくれる?」







聞いた話をお兄ちゃんに話した。




「まずいな。もしその女の子がアリエッティさんだとしたら、そのまま国外に連れ去られるかもしれない」




「どうすれば…」




「さすがに大規模な捜索になると交渉から動くまでに時間がかかるな…。ケイト、とりあえずお前だけでも先に探しに行け。俺の馬貸してやる。でも…大丈夫か?」




そういえばケイトって王族のお稽古が嫌いで乗馬苦手だったんだっけ。




「うん。大丈夫!」




撮影で乗馬の練習をしてて本当に良かった。




「そっか。変わったんだな…。頑張れよ」




お兄ちゃんの力強い笑顔に背中を押されて街を駆け出す。




アリエッティを探しながらついついあの日のことを思い出してしまう。






初めて俺がこっちの世界に来た時、ケイトは城を追い出されていた。


詳しくは知らないけど、ケイトは相当なチャラ男だったらしい。


まあケイトはカッコイイしちょっと天狗になってたんだろうな。




普通の気遣いをしただけで周りの人に驚かれたのは逆にびっくりしたけど。




結婚を決めないと家に帰れないって言って家臣がどんどんお見合いをセッティングして、でも女性達はみんな俺自身よりも家柄とかお金とか外側に夢中で、本心じゃない繕った外側で接する人しかいなかった。




そんな時お見合いの帰りにアリエッティに出会ったんだ。




俺のことを知らない人だったし、何より飾らない中身で接する人だったから単純にもっと会いたいと思って、ダメ元でプロポーズしてみて、そしたらまさかのOKもらえて、本当に嬉しくて……








馬のスピードがかなり遅くなっていることに気づいた。疲れてるのかもしれない。


確かこの辺りに川があったはず…




川のほとりに来た。霧がかかっていてあまり遠くが見えない。


川の水を飲ませて馬を休ませると一緒に、自分も少し休憩する。




もし夢の中でケイトが言ってた事が本当なら、俺はそろそろここにいられなくなる。




誤解させたまま会えなくなるなんて絶対嫌だ。




今までもたくさん辛いことも悲しいことも悔しいこともあったし、その度に涙も流してきたけど、こんなに苦しくなることがあるなんて知らなかった。




もしこのまま会えなかったら…




自然と涙が溢れてきた。




ダメだ、ネガティブにいたら何も変わらない。ポジティブに考えなきゃ。




あの日アリエッティの笑顔を見た時、なんかずっと一緒にいるかもって、そう感じたんだ。


だから絶対に会えるって信じてる。




アリエッティ、どこにいるの?






その時、どこからか歌が聞こえてきた。

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