第14話

なんでああなってしまったんだろう…




思い出したくもないのに気づいたら脳裏に浮かんでしまうさっきの記憶。


これ牢獄行きとかにならない?大丈夫?国際問題になっても私責任取れませんよ!?




うわぁ…


ああ…




よし、逃げよう。今すぐ家に帰ろう。早く国外に脱出しよう。スイーツがちょっと口惜しいけど、背に腹は代えられん。




えっとケイトはどこに…いた!


私がさっき来た方向からケイトが歩いてきた。ん?なんでこっちの方向から来たんだ?まあいいや。今はとにかく急がなきゃ!


相変わらず会場中の女性たちの目をくぎ付けにしているケイトの前に出るのは一瞬躊躇しかけたけど、そんなことしてられない。




「ねぇケイト!帰…」




ケイトの雰囲気がいつもと違う。キリッとしているというか、ピリッとしているというか…


こんなに目力強かったでしたっけ?




「アリエッティ」




いつもより声も低い。




「そろそろ帰ろうか」




「う、うん。私もそう思ってたとこ…」




機嫌悪いのかな…


確かにこんな大勢の知らない人に囲まれまっくてたら疲れちゃうか。


ケイトのためにも早く帰ろう。うん、そうしよう。






出口に向かっていると、






ゲッ!!!






出口近くでマリア・シリウスカップルが他の人と談笑していた。


バレませんようにバレませんように…!!!


そう願いながら出ようとしたが思いっきり目が合った。






あ、詰んだ。






覚悟したが、なぜか二人ともギョッとした同じ表情をしている。仲良いんだな。




「そろそろお暇させてもらいますね…ハハハ」




怒ってるだろうな…




「そ、それは残念ですわね。ねぇシリウス?」




「あ、ああ。で、でもお二人は遠方から来ていらっしゃいますし早くお帰りにならないとなんかいろいろ都合が悪いかもしれませんからしょうがないですねそうですよね」




なんで敬語?それに最後の方早口すぎて何も聞き取れなかったんですが…


しかも全然こっちの方見ない。私がガン見すればするほど別の方向見てるし…


でもこの様子だと怒ってないっぽいよね?


大丈夫だった!やったー!




本当に良かっ…


安心してケイトの顔を見たらびっくりした。




なぜ獲物を狩る肉食獣のような目をしてシリウスを見ていらっしゃる!?




「では、失礼します」




そう言って私の手を握るケイトと一緒に、そのまま会場を後にした。











「来てどうだった?」




馬車のタクシーに乗るまでもケイトはいつもより言葉数が少ないし、乗ってからも声のトーンは控え目だった。




「よかったよ」




一瞬終わったと思ったけどなんとかなったし、マリアさんには謝罪できたしスイーツも食べれてこれで良かったのかもしれない。どうせすぐシリウスも忘れるよ。忘れるよね、きっとね…




「でも、顔が暗い気がする」




そうかな?


さっきはもう無理だと思って多分ピンチは脱却したから大丈夫なはずだけど…


確かにどこかモヤモヤする。




ケイトの手が私の顔に触れた。


私が映る綺麗な目はいつもよりも力強くて、私の奥の方まで捉えられているんじゃないかと思うくらい。




「なんかあった?」




見つめあったまま、ケイトの手が壁にトンっと置かれた。


まってこれ少女漫画の定番壁ドン!?


こんなにも綺麗な顔が目の前にあるのに、近すぎて自然と顔を逸らしてしまう。




「ちゃんと見て」




そう思った時には私の顔は、ケイトの手によって正面を向けさせられていた。


顔がち、近い…




「俺だけを見てよ」




そう言う顔は少し悲しそうだった。


もしかして私、ケイトのこと傷つけてる…?






自分が傷つきたくなくて逃げてるくせにそれを大切な人にしてしまったらダメじゃん。




分かった。さっきからこのモヤモヤと渦巻くこの気持ち。


そうだ、模試だ。


そう思った瞬間、胸が痛くなった。




現実で嫌なことがあっても、こっちの世界でアリエッティとして過ごす時には忘れられる。逃げられる。傷つきたくないから。なのに、思い出してしまった。






「ちょっと歩こうか」











あの日、ケイトがいなかったら私は多分あそこで終わってた。ケイトがプロポーズしてくれたから、今こんなにも私は幸せなんだと思う。いつも脇役として過ごす私が唯一ヒロインになれるのは、ケイトのおかげだよ。




「あのね、私の顔が暗かったのは…今日のことは何も関係ないの」




模試の結果が良くなかったのを思い出したなんて言えるはずもなく。




「ちょっと、昔の嫌なことを思い出しちゃっただけで…」




「そっか。無理に言わなくていいよ。誰でもそういうことはあるし」




「ねぇ、どうしたら失敗して落ち込まないようになる?」




「うーん、いいんじゃない?落ち込んでも」




どこかで猫がにゃあと鳴いた。




「後で走る体力を貯めるために立ち止まってもいいんだよ。だから何回でも落ち込みなよ。俺がいるじゃん」




そう言ってケイトはふふっと軽く笑った。


ひんやりとしてるけど柔らかい風が私たちの間を通り抜けた。




「私ちゃんと、ケイトだけを見てるよ」




ケイトの頬に、私の手を添える。




「うん」




なんて綺麗なんだろう。




「私ケイトのこと好きだから…大好き…」




私から初めてのキスをした。一瞬の時間が凄く長く感じる。


ケイトは少しだけ驚いた顔をしたあと、微笑んだ。






「俺は…大好きじゃないかな」




ケイトの手が私の髪を優しく撫でる。






「愛してる」






唇が重なった。この夜空ごと全て閉じ込めて、ずっとこのままでいたいと思った。

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