第13話
俺は、駆け足で去っていくアリエッティの後姿をただ見つめることしかできなかった。
なぜだろう。もちろん嬉しくはないが、無礼な態度をとられたのに不思議とイライラしなかった。
「盗み聞きしていたようで悪いですが、あなたにアリエッティは渡しませんよ」
黒髪で立ち姿が異様にシャキッとしている男が突然目の前に現れてビックリする。
パーティー会場でも見かけたこの男は…
「ご紹介遅れました。アリエッティの夫のケイト・ガルシアです」
「いつから聞いてたんですか」
「ん~と、やり直さないかぐらいのところですかね」
結構前からだった。
「本当はすぐにでも向こうに引っ張って行きたかったんですが、アリエッティがいつもと違う一面を見せていたので」
「ああそうか、あなたは最近出会ったから彼女の過去を知らないのでしょう。昔は酷かったんですよ」
「それはあなた達の前だと気を張って素を出せなかったのではなくて?」
まるでアリエッティの事をわかりきったような顔をしているのが癪に障る。
「能ある鷹は爪を隠すんですよ」
聞いたことがない言葉だった。
「のうあるたか…?」
「ああ。えっとこれは遠国の古い言葉で、鷹はそこにいる鳥の事なんですが、本当に魅力や能力がある人はむやみにそれを見せないという意味です」
「皆さんに見せなかったところも含めて、私は今の彼女を愛しているので」
「それは…罵られるのも好きなのか?」
俺はずっとさっきのアリエッティの態度が気になっていた。
「どうでしょう。僕は彼女に罵られたことはないので。彼女があんな風になるのはかなり珍しいなと思いましたね」
ケイトが不自然なくらい清々しい笑みを浮かべている。
「でも、罵られたら言葉でもっと上から押さえつけて反応を見たいかな」
一瞬目が鋭くなって口角が上がった気がしたのは気のせいだろうか。
「言っておきますが、隣国の王子の妻に手を出したら外交問題ですからね。そういえば昔、彼女を町で襲った輩がいまして、盗人にしてはやけに格好が立派だったんですが知っていますか…?」
うっ…。
マリアがやったことだが、まさかバレていたとは。
「まあ、知らないか」
そういう割には目力が強い。
「もし今度彼女に話しかけたら許さないので」
笑っていない目を見て、絶対にこの人は敵に回さないほうがいいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます