第12話

来た道を戻っていると、前から男性が歩いてきた。




「久しぶりだな、アリエッティ」




げっ!


戻る途中で元婚約者に出くわしてしまった。




「マリア見なかったか?」




「マリアさんならさっき戻っていきましたけど」




「そうか、行き違いになっていたか…」




シリウスはまだ何か話すことがありそうな雰囲気。


関係が関係だから接し方の正解が分からないし、早く戻りたいよぉ…




「いきなり婚約破棄したことはすまなかった」




「え?ああ、はい…」




急に何で婚約破棄の事を?




「もしかしてまだ怒ってるんじゃないかと思ってな」




私は無関係なので何とも感じてないけど、婚約破棄されて怒らない人いないと思う。




「もういいんです。なのでお気になさらず。こちらはこちらでやってますので」




早く帰らせて…


するとシリウスはしげしげと私を見た。




「お前、前と変わったな。別人みたいだ」




みたいじゃなくて本当に別人です。




「今のアリエッティはその…綺麗だ。素敵な女性だと思う」




はあ…




「また、やり直さないか」




は?????


耳を疑った。でも、聞き間違いではなかったらしい。




「えっ、や、やり直すって…え?」




「もう一度、俺と付き合わないか」




そこは分かってるのよ。




「前みたいにはいかないかもしれないが…」




「いやいや、マリアさんは?」




「マリアも賛成してくれるんじゃないか?世継は多いほうが良いだろ。側室だって立派な妃だ」




バカなのか?なに側室前提で話を進めてるんだよ。




「お前の相手、第5王子だろ?俺はこの国の次の王になることが決まっている」




アホなのか?多分この人、人の気持ちとか考えられないんだろうな…。故意じゃないんだろうけど、確実にいつか周りに人がいなくなるよ。こんな人が次期王だなんて、私はこの国の未来が心配です。




「お前も女王になりたいんじゃないのか?」




「なるわけねぇだろ」






「え」






「私がケイトと離婚してあんたとくっつくわけないでしょ!」




目が点になる彼を前に、やってしまったという気持ちにはなるが、一度火が付いた感情は収まらなかった。




「マリアさんの気持ち考えろよ。自分をいじめてきた女が、夫の側室になったらどう考えても絶対嫌だろ」




と、言いつつ、私も多分あんまり空気が読めない。仲良くなったと思った友達も、いつの間にか自分の周りにいなかった。ぼっちだった。


龍人もぼっちだった。彼は学校で浮いてた。




「王子だからってうぬぼれんな。親が王だっただけじゃん」




龍人は自分でこの世界に入った。上に行くために自分から動いて頑張って頑張ってデビューした。ファンに愛を与え続ける。自分を妬む人にだって愛で返す。私もそうなりたいと思った。勉強を頑張った。堂々とするようにした。前に比べて周りに人ができるようになった。




「もっと内面とか、自分がしたことで評価されるように努力しろよ」




変装しないで外は歩けないし、自由に恋愛もできない。矢面に立たされても笑顔でいなきゃいけない。なのに「ファンのおかげ」といつも言って愛してくれる。仕事で忙しいのに勉強もして大学まで行く。もっとトップに行くために努力を欠かさない。困難にぶち当たっても走り続ける。




私の悩みなんて彼に比べたら小さなことなんだ…E判定だったのは努力が足りないだけ…もっと頑張らないと…




「それじゃ…さようなら。」




シリウスが何か言った気がするが、気にせずに背を向けて歩く。その瞬間、自分の心臓がバクバクと音を立てていることに気が付き、一気に汗が噴き出した。




やっちゃった…!つい言いすぎた…どうしよう…。うわ~ん…けいとぉ…




今すぐうずくまって泣きたい気持ちを抑え、競歩並みの早歩きでその場を去った。

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