第9話

「はぁ〜…」




ため息をつき、タイムラインが流れるSNSの画面を戻さないままスマホを机に置いた。


いつの間にか私はご飯を食べてても、お風呂に入っても、学校に行っても、SNSで龍人のことを呟いてても、頭の中にケイトさんが浮かぶようになってしまった。これは大変な一大事だ。


今まで龍人以外の人が私の頭にずっといるなんてそんなこと無かった。




もし、龍人以外の人に心惹かれているということなら…


うーん、ムズムズする…


これでいいのかな…


でも頭に浮かばないようにすればするほど逆効果になるし、ふとした瞬間に思い浮かべて気づいたら笑ってたりするし……






この堂々巡りをどうにかしたくて、私は布団をかぶって眠りについた。















スプーンを口に入れた瞬間、濃厚なミルクの味とちょうどいい甘さが口に広がり思わずほころんだ。そんな私を見てケイトさんが微笑む。ドキドキしてすぐに手元のジェラートに目を移した。




ケイトさんがジェラートを食べたいというので、ジェラートがおいしいと評判のお店にやってきた。


ジェラートめちゃめちゃ美味しい。


そしてこのお店の売りの一つ、屋上のテラスから見える街の景色は更にジェラートを美味しくしていると思う。


そしてカップルが多い。見渡せばテーブル全部にカップル。そのおかげかみんな自分の恋人に夢中で私たちのことを見てくる人もいない。




「ねぇ、2人は恋人?」




いきなり何!?と思ったら、小さな女の子が立っていた。




「結婚してるから恋人でもあるのかな」




ケイトさんが答える。




「じゃあ好きなの?」






「俺は好きだけど…アリエッティはどうなの?」




えっ!?




「す、好きだよ……?」




なんだか顔がちょっと熱くなってきた。




「恋人ってなにするの?チュウ?」




なんと踏み込んだ質問…




「するかもよ?」




ケイトさん!?するかもよ!?しかもなんでちょっと匂わせたんですか!?してないでしょ!?まだ同じ部屋で寝てるだけしかしてないでしょ!!




と、心の中で叫んでいると女の子は「ふーん」と言って立ち去った。


ご満足していただけたでしょうか…




「ケイトさん、何であんな噓を」






「嘘?」




そんなキョトンとした顔しないで。整ったその顔でやられると可愛くてときめいてしまうから…




「ちゅ、チュウするかもってやつ…」






「何?聞こえないなあ」




ケイトさんがぐっと顔を近づけてきた。


近いです!そんなにジッと見ないで!




「キスするって…!」






「するとは言ってないじゃん」




なっ…!?


したり顔のケイトさん。




「だってこれからするでしょ?」




そうなんですね!?そう思っていただけてるんですね!?




「嫌?」




ずるいなあ。こう聞かれたら嫌でも嫌って言えないよ。嫌なわけないんだけど。




「い、良いです…」






「ふふっ、良いんだ。ならよかった。っていうかさ、なんで敬語なの?」




なんでだっけ?なんとなく?あれ、でも出会った当初はお互い敬語だったような。




「じゃあこれからは敬語禁止。ね、アリエッティ?」






「え、はい。あ、うん。ケイトさ…ケイト!」






「はい、あーん」




ケイトの手にはジェラートが乗ったスプーンが。


急に!?


あ、あーん…パクッ


甘くておいしいけど、けど、恥ずかしすぎて味がよくわからない…


ってこれ、まるでテレビの企画の妄想デートみたいじゃない!




「アリエッティりんごみたい」




りんご?




「顔真っ赤じゃん」




ケイトが笑う。


何もしなくてもカッコいいのに、笑うとさらに魅力的になるから困る。




顔のほてりは収まりそうにない。




今すぐ眠ってこの場から一旦離れたいと思った。

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