第8話
チャラそうな男が、至近距離でヘラヘラしながら私につきまとっている。
なんだこのナンパみたいなやつは。いやこれがナンパか。
「ほんの少しだけだからさ」
こら!肩に手を回すな!
「すみません。彼女、僕の妻なので」
ナンパ男のいる反対側から急に誰かに引き寄せられ、私の体から男の手が離れていった。
びっくりして見ると、私を引き寄せたのはケイトさんだった。
「お、おぅ…ゴメンな……」
な、なんでケイトさんが。
「急に居なくなったからびっくりしちゃったよ」
あ、すみません…
でもこっちもびっくりというか…
「その格好どうしたんですか?」
ケイトさんはサングラスをかけ、全身黒い服を着ている。
「一応変装しておいた方がいいかなって」
変装ヘタすぎるだろ。
その格好はもはや自分から有名人ですと言っているようなもので、逆に目立ってる。
街行く人がチラチラこちらを見ている気がする。
まあ変装してもしなくてもイケメンはみんなオーラが漂ってバレてしまうのだろうけど…
ちょっと抜けてるところが可愛いなんて思ったり。
「あれ、自転車は?」
「ごめんなさい盗まれました…」
「そうなの!?いや俺の自転車あるから帰れるけど…そもそもアリエッティって自転車乗れたんだね。庶民しか乗れないイメージだから」
そうなの?
「じゃあなんで王族のケイトさんは乗れるんですか?」
「えっ?あー、俺は結構そういうのが好きで」
昔付き合ってた人の影響とかあるのかな…
「なんか元気ない?」
「そんなことないですよ。」
別にそんな、あの話を真に受けたわけじゃないし…
「一緒にお家帰ってご飯食べよ。ね!」
そしてまさかの自転車2人乗りで帰ることになった。
スラッとしたケイトさんの背中は意外とガッチリしてて、暖かい。
「落ちないようにしっかり掴まってて」
ぎゅっと抱きついたらケイトさんの体温がより伝わってきて、私の心臓の鼓動が伝わってないかよりドキドキしてしまう。
自転車の二人乗りなんて初めてしたなぁ。しかも相手は男性。
現実の私が、二人乗り出来るような相手が私にできる日なんて来るのだろうか。
っていうか、何をしたら素敵な人と付き合えるんだろう。
「どうして…どうして私と結婚したんですか?」
「え、なんで急に?」
「なんとなくです。」
別に週刊誌読んだとかじゃないから。全然違うから。
「好きだからに決まってるじゃん」
え?
自分の耳を疑ってしまう。
「好きって、あの好きですか?」
「ははっ、逆にどの好きなの」
だって今までそんなこと何も言わなかったじゃん…
思い返せば、私たちが結婚したきっかけはケイトさんにいきなりプロポーズされたからだった。
「俺さ、アリエッティと出会えて良かったって、まだそんなに時間経ってないけどめっちゃ思うんだよね。アリエッティがどう思ってるか分からないけど…家に好きな人がいるって楽しいし、一緒にごはん食べる人がいて美味しいって言ってくれる人がいるって幸せ。好きじゃなかったら結婚できないよ」
「部屋別々なのに?」
頭で考えるよりも先に口から飛び出てしまい、はっと口を閉じるももう遅い。
「逆にいいの?なんか、迷惑かなって…」
迷惑じゃない。
「一緒で嫌じゃない?」
嫌じゃない。
嫌ではない。
コクコクと背中越しで頷く。
「なんだ、良かった。じゃあ今夜から一緒に寝ようね」
きっとこの言葉にそんな意図は無いのかもしれない。
けど、やけに色っぽいこの言葉にどう反応していいか分からず固まっていると、ふふっという声がが聞こえてまたドキッとしてしまったのだった。
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