第5話
結婚できる年齢になったらすぐに結婚したいと思っていた小さい頃の私、現実では彼氏どころか交際経験もないオタクになったけど、異世界でその夢叶ってるよ。
馬車の中で揺られながら外の景色を見つめる。私が住んでいた城下町がどんどん離れていき、緑だらけの景色になると遠くにはお城が見えた。
隣国、セシーランド。
セシーランドには、顔が整ってて、スタイルが良くて、優しくて、甘いものが好きで、何かと私の推しと似ているケイト・ガルシアさんがいる。
彼のプロポーズを出会って初日で受けいれた、つまり交際0日婚なわけだけど、後で重大な事実が判明した。
ケイト・ガルシアさんは、セシーランドの第5王子だったのだ。
5人も王子がいるので彼が王になり私が王妃になることは多分ないのだけど、そんなことはどうでもいい。
彼は、末っ子のためかわがままな性格と、女遊びが激しいこと、王族一の顔の良さで有名だった。
顔の良さは分かるけども。
評判がめちゃめちゃ悪かったのだ。
でも、あの時の彼はわがままな性格どころか紳士的で優しくていい人だった…
…いや、あの顔と優しい性格だから女遊びができるくらいモテるのでは?
もしかしてプロポーズされて舞い上がっているのは私だけだったりする?
実は既に何人か婚約者とか妻がいて、私は彼の妻の一人とか…
でも、ケイトさんって本当にそんなことする人か…?
まあ、なんかあったら帰ること出来るし…
シャルル家の人達は「いつでも戻ってきていいんだよ」と言っていた。
戻ってきたらダメだろと思った。
家族も使用人たちも、みんな結婚を凄く喜んでくれて、私のことを祝福してくれるのがとても嬉しかった。
この家の令嬢だったら婚約破棄されても一生楽に暮らせそう。などとニートみたいな事を考えていたけど、すぐに結婚してしまったし、シャルル家には海外に留学している息子がいるので私は継げないらしい。残念だった。
などと考えていると、景色は人で賑わう城下町に。
沈みかけた夕日は、ゴンドラや小さい船が行き交う川や建物をオレンジに照らし、とても幻想的な雰囲気だ。
馬車がだんだんとお城に近づいていく。
広場に集まり、旗を振って笑顔で2人を祝福する大勢の国民。
晴れて夫婦となった2人は、国民に見守られながらお城で誓いのキスを交わし、国民の歓声が巻き起こる_
なんて、王室の結婚でよくある光景を想像していると、馬車はそのままお城を通り過ぎた。
人の賑わいも落ち着き、民家が建ち並ぶ住宅地の中を進んでいると、ある家の前で馬車が止まった。
ドアを開け、手を差し出してくれたのはケイトさんだった。
「段差があるから気をつけて」
やはり優しい。
「ここが僕達が暮らす愛の巣だよ」
目の前には、外壁が汚れでくすんだこじんまりとした一軒家と、草も花も何も無い、茶色い地面だけが見える庭がある。
ちょっと想像してたよりもアレでアレだけど、まあ住めるならいいだろう。
人口が密集している日本の、さらに密集している東京の、人が密集して暮らすマンションにしか住んだことの無い私にとっては庭付き一軒家というは少し憧れがあった。こういうのじゃないけど。
「ごめんね。本当はもっと広くて綺麗なところを所望したのだけど…」
ケイトさんが申し訳なさそうな顔をする。
ボロボロのアパートとかなら困るけど、実家は広すぎて毎日迷子になってたし、高価なものが多すぎて走れるわけでもなかったので、逆にこれくらいの方が自由にできて良さそう。
「大丈夫です!人類は昔、暗くて狭い洞窟に住んでましたし、牢屋みたいな不衛生さでなければ健康に暮らせるので問題ありませんよ!」
ケイトさんは少し目を丸くして私を見つめている。
何か変なこと言っちゃったかな…
「どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない。そっか。ありがとう」
すると目の前に一羽の鳩がやってきた。首には紐で縛られた紙が付いている。
その紙を取ると、ハトはまた来た方に飛び去っていった。
伝書鳩…?
なんという古典的な手法…
世界観が崩れてなくてとてもいいと思います。
手紙は王様からだった。
「ケイト、そして親愛なるアリエッティさん、結婚おめでとう。その家で2人だけで仲良く暮らしてください。今までよりも新鮮で挑戦的な暮らしになると思います。アリエッティさんには今度会いたいな☆」
手紙に☆使う王様なんているのだろうか。
間違いなく面白キャラだと思う。
そしてなんとなくケイトさんに対して冷たい。
“2人だけ”か…
私本当に結婚したんだな…
家の中は外よりもかなり綺麗で、しかもテーブルや棚などの家具まで付いていた。
「家具はあっても生活用品は無いな…僕は街に買い物に行ってくるけど、アリエッティはここに居ていいよ。長時間馬車に乗って疲れてるだろうし」
という事で、お言葉に甘えてお留守番させてもらう。
1階はキッチンやリビングがあり、部屋は2階にあった。
階段に一番近い部屋を開けてみると、机とベッドが置いてあった。
ベッドに飛び込むと、程よくはね返しが返ってきた。
「ふかふか〜」
ああ眠いなぁ…
もう体が動かないです…
おやすみなさい…
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