第2話 出勤したら上司の様子がおかしい。


(白イルカ…今頃どうしてるかなあ)


 謎の白イルカのことが気になって、

 仕事が手につかない。


 そんな私の目の前に、どさり大量の物件情報が置かれる。


「!!」


「なにぼーっとしてるんだ!!今月も鳴川の売り上げ成績はビリ!!いつになったらノルマ達成できる!!」


「す、すいません…!!がんばります!」


 私は慌てて立ち上がり、頭を下げる。

 

「当然だ!!!」


 そう怒鳴り去っていく鬼の室長、御手洗一馬。


 室長が本社から異動してきたとき、間違えて「おてあらい」室長と呼んでしまって、すっごい怒られたことが記憶が新しい。


 正しくは「みたらい」なんだって。漢字って難しいね。

 

(営業成績が悪いのは私のせいだけど、相変わらず言い方がきっついなあ)


 書類の山を絶望的な気持ちで眺めていると、デスクに私の好物である煎餅が置かれる。


「青のり味…!!」

「それ、好きだよね?」


 そう言って微笑むのは、我が職場のマドンナ、星野涼香だ。


「ありがとうー!」


 涼香は同僚であり、大学からの友人だ。


 綺麗で、優しくて飾らない性格には憧れすら抱く。


「望ちゃんもさあ、涼香ちゃんを見習えよ~。仕事もできて、美人で気配り上手でさあ」

 

 私の隣の席のベテラン鏑木さん。

 恰幅の良いお腹を揺らして、今日も愉快そうに笑っている。


「あ、そうだ。望ちゃーん」


 涼香が自席に戻った後、鏑木さんが私に猫なで声で話してくる。


「この説明資料と見積やっといてー。チラシ作成もできるよね?あと、この後来客だからお茶出しよろしくね」


(えっ……!)


 どさりと置かれたファイルの束。

 自分の案件で手一杯なのに、こんなに…。


「……。はい!わかりました!」


 から元気で返事をすると、鏑木さんは「一服一服~」と言いながら出ていった。


(華麗なる仕事押し付け芸……)


 その時、私の視界の隅で、室長室に入ろうとした御手洗室長が、盛大にドアに足をぶつけていた。


「痛っ」


(……え?あの鬼の室長が!?)


 意外なすっとぼけシーンに目を丸くしたけど、

 「いや、それどころじゃない」と思い直した私は、すぐさま仕事に取り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る