帰宅したら白イルカがいた。
小栗とま
第1話 帰宅したら白イルカがいた。
「ふあーっ、疲れたぁ」
帰宅後10秒。
すぐにパジャマに着替えて、ベッドに倒れこむ。
これが私――鳴川望、OL25歳の日常だ。
「ああ~明日も仕事かあ。行きたくない~」
このまま寝落ちしようと瞼をおろした時である。
何処からか、それはそれはキュートな鳴き声がした。
「きゅーっ!!きゅーっ!!」
「……え?」
私はありえない状況に驚きで固まる。
1人暮らしの狭い部屋―—ペットは飼っていないし、同居人もいない。
自分以外の声が、こんなにクリアに聞こえるわけない。
(ついに、仕事の疲労で幻聴を聞いてしまったのか…)
私は「寝よ」と思い直し、再び目を閉じた。
× × × ×
朝。
「きゅぴー!!きゅぴい!!きゅぴっ!」
あれ…。
目覚ましの音、こんなに可愛かったっけ。
いや、違うな。
これ昨晩聞いた幻聴と同じやん。
「きゅーーーっ!!」
すると、「はんぺん」のような柔らかい、
白いぷにぷにの物体が、おでこにぶつかる。
「ふえっ!?」
びっくりして変な声が出た私は、慌てて起き上がった。
「なにごと!?」
そして、信じられないことなんだけど。
私の目の前に、「白イルカ」がいた。
「きゅうっ??」
白イルカは顔を傾けて、不思議そうに私を見ていた。
頭に、はんぺんのようなふわふわの白いクッションをつけて…。
「なんで…白イルカ」
私は唖然とした。
白イルカと言えば、思い出す。
幼いころ、お父さんに連れて行ってもらった水族館のことを。
「お父さん!見て、はんぺんが泳いでるよ!」
大きな水槽の中で、すいすいと泳ぐ、白くて大きくて、優雅ないきもの。
私には動く巨大なはんぺんに見えて、ひらすら白イルカを「はんぺん」と呼びかけてはしゃいでいた。
水族館で一番、お気に入りの生き物だったなあ。
って、今はそんなこと言ってる場合じゃなくて。
「水の中にいないとあんた死ぬよ!?」
私は目の前の白イルカを揺さぶった。
「ぴきゅーーー!!」
私の心配をよそに、白イルカは呑気そうだ。
ヒレをパタパタと動かして、ふわりと宙に浮かんだ。
まるで水中にいるかのように。
(ちょ…超常現象!?)
「これもしかして、幻覚!?」
私はこのありえない状況に困惑した。
自分を落ち着けるために、そそくさと洗面台に向かう。
「白イルカが私の部屋にいるわけない。
そもそもイルカは水の中で生きるし、おかしいし、生物として!」
顔を洗って、歯磨きをして。
そのまま朝風呂に入る。
そうしている間に、きっとあの白イルカは消えているはず。
なんたって私の幻覚なんだから、って思ったけど。
「きゅいっ!!」
…風呂から上がってもまだ見えんですけど!
頭を振り回してみても、目薬を差してみても、
白イルカは、そこに存在していた。
「なんで…なんでなん……」
朝から葛藤した私。
その時、ピピピ…と電子音が鳴った。
かけていた目覚まし時計だ。
「とりあえず出勤しなきゃ」
会社に遅れるわけにもいかないので、テキパキと身支度を済ませる。
「お腹減ったら、食べていいよ…」
一応、食料の鯖缶を置いて、家を出た。
「きゅっきゅー!」
『いってらっしゃい!』
という感じでヒレを振る白イルカに、
ちょっと、頬が緩んでしまった。
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