3話目

カンカンと外に備え付けてある非常用階段を登る。今時珍しいものだった。ここは高さも人通りの少なさも申し分ない。飛び降りれば確実に。


屋上に着いた時、朝日に照らされたあの子が居た。艶やかな黒髪と漆黒の瞳を持つ少女。こんな時間にいるとは思わなかった。彼女はフェンスに腰掛けたままこちらをちらりと見ると、だんだんと明るくなってくる空を見ていた。危うさは感じない。何故か切なくなってきて


「なにしてるの?」


と思わず聞いた。彼女は信じられないといったように目を見開いて


「世界が死んでいくのをみてたの。」


と悲しい顔でつぶやいた。僕と同じで夜の方が落ち着くらしい。死んでいく世界に僕ら2人。本当に世界が滅んでしまうようだった。


「僕はね、もうこの世界にはいられないんだ。ここは僕の居場所じゃない、そんな気がする。だから、ただ帰るんだ。」


この世界に僕の居場所はない。精神を解放したい。魂だけになってみんなから忘れられて、無を彷徨うことになっても。


「悪いね、君の場所なのに。」


同じようにフェンスに腰掛けてみる。彼女と違い、僕はバランスが取れない。フェンスの上にすら居場所はないようだ。彼女は何も言わない。何も聞こえない。


「それじゃあ、僕はいくよ。君は元気で。」


最後に彼女をちらりと見ると、不思議そうに見ているだけだった。僕の最後をみてよ。


冷くて静かだった朝に鈍い音が響いた。それを見届けたかのように屋上のフェンスからカラスが一羽、飛び立っていった。

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墜落 枝瀬 @ese_i3

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