第22幕:スイカは割るもの食べるもの
「―――これは――新種の果物、なんでしょうか?」
「どうも、そうらしい」
「異訪者の方々が……普通に……食べられる?」
「美味しそうではありますね」
「厚い表皮に、赤い果肉」
「……だが……あの儀式は一体……?」
都市外から運ばれる野菜――野菜?
大丈夫、スイカは野菜で良いよね。
都市の外から、コロコロと。
次々に荷車で運び込まれてくるそれらは、何とイベント開始日前、一夜のうちに現れたという。
NPCさん達は首を傾げ。
興味深げにそれを伺い。
「――でも。昨日の今日で、あんまり食べる段階にはなってないみたいだね」
「そりゃ、怪しいからな」
「シャクシャクしてる人もいるよ?」
「慣れが重要かと」
初日から参加しているユウトたち。
そして、今日が初参加になる私。
イベント二日目での参加という事で。
皆と成り行きを確認してはいたけど。
荷車一杯に積まれた果実。
それを伺うNPCさん達は、やっぱり。
「「……………!!」」
目を丸くしていて。
やや引いているね。
―――まぁ、確かに……。
「―――我が心眼に一片の曇りなしィィィィ!!」
「一刀両断してやれぃ!」
「さぁさ、並んで並んで! 当然無料でサービス中だよー、クエストの予行演習だよー」
都市の大通り。
空きスペースを活用しているようで。
あちらこちらでスイカ割り。
恐怖だって覚えるだろうね。
「やっぱり、NPCさん達には珍妙な光景に見えるのかな……?」
「意味も無く割るんだもんなぁ」
「……日本だけの風習だっけ?」
「海外にも、スイカ割りに似たようなピニャータっていうのがあるんだよ?」
メキシコの御祝い事だけど。
くす玉の様な紙枠へキャンディとか、お菓子を入れて。
目隠しした子供に割らせる。
割れたら山分けで。
賊の付け入る隙のない、平和的な交渉と言うべきだろう。
「「ほぇ~~~」」
「……お菓子、良いですね」
君たちにもハロウィンがあるじゃないか。
「―――んで……それはともかく、ルミさん……?」
「どうかしたかい?」
「いえ、こっちの台詞です」
で、今の状況なんだけど。
日が高くなり始め。
そろそろ、現実でもゲームでも正午になる頃。
私は、何時ものメンバーで海岸都市の中央広場に集合していたんだ。
ユウトたちは自由な格好。
能力重視の自由な装備で。
「勿論、私は無職な海賊さんだけど?」
「……また属性が増えた」
「凄く似合ってるんですけど……ね」
「どういう恰好? それ」
着替えていないから。
貰って以降、私はあの
「くく――ッ。見ての通り、コンセプトは海賊貴公子さ」
「「………へ……?」」
「おぉ、やっぱり男装なんだ」
「久々に生で聞いたな」
「はい、完全に切り替えてますね」
「……ねぇ、ショウタ。僕の耳がおかしくなったのかな」
「いや、俺もだ」
「そりゃ、可哀そうに。一度PKしてみるか?」
一瞬頭がマヒするよね。
説明はよく知る幼馴染たちに任せてしまって。
今日が初参加の私は。
イベント告知を確認。
題は、「スイカはワルモノ食べるモノ」……と。
――――――――――――――――――――
【Event Quest】 悪玉スイカの乱
【概要】
海水浴の季節です。
都市外に現れた悪玉スイカを割りまくりましょう。
割れたスイカは、*****が美味しく頂きます。
【諸注意】
・当クエストは一週間の間行われます。
・開催時刻は公式サイトをご確認ください。
・割ったスイカの数に応じて報酬を獲得可能。
・引き換え対象賞品は、クエスト終了後に公開されます。
――――――――――――――――――――
初日は忙しくて参加できなかったけど。
まだまだ期間があるという事で、本質を掴む程度には楽しみたいね。
曰く、悪玉のスイカ。
それが、今回の敵で。
流石に、都市内には出ないらしく。
さっき声を張り上げていた人たちの言葉からとるに、都市外に出没するのかな。
「スイカは割るもの……悪者?」
「運営が考えそうなギャグだね」
「――話は終わったのかい?」
「もちもち。ルミねぇ実は男でしたって言っておいたよ!」
……成程ね。
「―――分からない―――ッ!!」
「……本当に分からない」
だから、二人はあんなに混乱してるんだ。
三人が皆ボケに回るなんて、悪い子達だねぇ、本当に。
「お二人とも? 本当は、ルミ姉さんの72通りある得意技の一つです」
「両声類って言ったか」
「りょうせい……蛙?」
「ゲコゲコっすか?」
「――そう―――ルミねぇはカエルさんだったんだよ―――ッ!」
「「なっ――なんだってー!」」
……………。
……………。
「―――まぁ、そういうわけで。こういうのも得意なんだ」
「「なるほど」」
短い説明を経て。
ようやく……だ。
ようやく、狩りへ行こうという話になって。
「よっしゃ! 行くぞ! ――スイカになんて負けないんだから!」
「やめて? 将太が言うとアレだから」
「本当に負けそうだな」
「想像できますね」
「紙防御だもんねぇ。前には出ないでね?」
和気藹々と話しながらも。
纏まって歩いていく私達。
都市の入口周辺は待ち合わせ地帯。
それは何処も変わらなくて、都市間を行き来できる門の周りには沢山のPLがいて。
「―――ん……何か」
「こっち来てませんか? あの人たち」
その中のひと固まりが。
私達へと近づいてくる。
凄くガラが悪くて。
統一した、変な格好の男たちだね。
「――へへへ……検問です注文でーす。良い子の皆さん、ピザはお持ちですか?」
「お餅ピザはありますかぁ?」
「テイクアウトですかぁ?」
「「……………ぇ?」」
―――渾身のギャグ、通用せず。
突如として絡んできたPL達。
当然、変人集団の来襲にユウトたちは身構えたけど。
別に何かしてくるでなく。
道行を邪魔するでもなく。
ただ話しかけてきただけといった初対面の男たちの真意を測りかねているんだね。
「――やぁ、レイド君。皆も元気そうだね」
「男装海賊さんもな」
「「ども」」
「……盗賊……? ――あぁ!」
「もしかして――盗賊で山賊で海賊なオモシロギルドさん?」
「椅子の立ち座りが大好きで」
「戦闘大好きクラブで」
「体験入船実施中っていう、あの盗賊さんたち……?」
「――おい、どういう伝え方してやがる」
「違ったかな?」
「大方あっているのでは?」
合ってるんじゃないかな。
「……まぁ、そういう事で。戦闘大好きクラブ会長のレイドだ。宜しくな、一刃の風さん達」
「「宜しくです」」
「うーい、よろピ」
「ヨロヨロです、ルミエ殿の御友人方」
「タカモリさんと?」
「……チャラオ――チャラ男さん……ね?」
「女性陣は近寄らない方が良いかもしれんなぁ」
簡単な自己紹介も終わって。
軽く挨拶した後。
会長さんの目が、ユウトへ向いていき。
「……んで――お前等。GR一位を目指してるんだってな?」
「「ハイ!!」」
「……凄まじい自信だな」
「勿論―――本気で目指してるからな」
やや、雰囲気が似ているのかな。
並び立つ……って構図に見えて。
「……なった時には、うちに遊びに来てくれや。是非とも
「じゃ、それまでは休戦という事で」
「では、某たちと」
「割った数で勝負といこうや!」
ふふふ……いい友達になりそうじゃないか。
引き合わせたのは、間違いじゃなかったね。
ワイワイと話しつつ。
大所帯で都市を出て。
青い空の下。
青々とした街道、草原に目を向けてみるわけだけど。
「ところで、およそ私だけ初参加だと思うんだけど、どういうイベントなんだい?」
「悪玉を割って、ポイントを稼ぐ、それだけだ」
「悪玉さんって?」
「スイカ」
「その悪玉さんは……?」
―――指差される方向へ……ん?
「―――キュキュッ―――キュ――!」
「「……………アレです」」
コロコロ――コロ。
コロコロ、コロリ。
……なんて、優しいモノじゃなく。
ビューン―――と。
立ち尽くす私達の目の前を。
駆け抜けるように、俊敏に転がっていく小玉。
そして、虫取り網のようなモノを片手に、必死に追いかけるPL達。
青々と広がった光景は。
田舎のスイカ畑を彷彿とさせるものだった。
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