第23幕:鬼ごっこスイカ




「―――キュキュッ―――キュ――!」

「「待てゴルァァァ―――ッ!」」



 ……………。



 ……………。



「―――悪玉さんを悪党さんが追ってるね?」

「いや、意味わからんし」



 確かに、我ながら分からないね。

 

 青々とした、艶のある身体。

 様々な柄がはしる黒の模様。

 野球ボール大からバスケットボール大ほどの大きさがあるソレ等は、非常に元気で。


 あちこちを跳ねまわり。


 そこら中を駆け回って。


 ちゃんと目と口があるね。

 くり抜かれた感じに彫られた様子のそれらは、ハロウィーンのカボチャ細工……ジャックオランタンを彷彿とさせて。


 

「でも、動いてない子達も居るよ」

「PLが近づくと凄い速度で逃げるけど、基本棒立ちが多いです」

「あと、ホンモノと偽物があってね」

「それ――どっち?」

「「……………ぁ」」

「あ、じゃねえよお前等。全員ボケか。――自立歩行する方を本物だと仮定するだろ?」



 全員で口をあんぐりしていると。

 頭を掻きながらレイド君が説明を始めてくれる。


 ―――仮定すると。


 近づくと、顔が浮き出て跳ねまわる。

 それが、悪玉のスイカで。


 偽物……本物のスイカは動かない。


 それ等は、収穫されて都市へ行く。


 PL達本来の役目は。 

 あの高速で転がり回る悪玉スイカさん達を叩き割っていく事―――という訳らしいね。



「随分すばしっこいけど、どうだい? ナナミ」

「昨日やった感じでは、追いつけはするけど、一撃入れるのが難しいかなぁ」



 彼女も俊敏が高いけど。


 追い付ける事と捉える事は別だからね。



「狙撃も、上手く躱されますし」

「何より、今回はなぁ……」

「うん、本当に」

「……………? お得意の魔法とかは使わないのかい?」



 一斉に溜息を吐いた皆。


 その中で動いたナナミ。


 彼女は手短に居るスイカへ。

 一定間隔をあけてこちらを伺う小玉のスイカへ向けて、手を伸ばす。



「キュ……?」

「―――情報看破―――!」




――――――――――――――――――

【Name】   アクダマン 糖度.5

【種族】  ウリ種


【基礎能力】            

体力:3  筋力:3   魔力:0


防御:10  魔防:300  俊敏:50  


【固有能力】

西瓜割すいかわり(期間限定)

近接武器以外による物理ダメージを大減少

――――――――――――――――――




「……まぁ、露骨に魔術メタなんだよ」

「射撃武器も効きにくいし」

「範囲攻撃せず、ちゃんと武器で割ろうって事だと思います」



 ユウトやエナの説明で得心した。


 確かに、酷い調整に見える画面。

 あくまでスイカ割りって事だね。


 で、糖度はレベルかな。


 防御は私と同じ貧弱なものだけど、俊敏が凄いせいでPL達は皆戸惑っているみたいだ。

 ナナミも言ってたけど、同じ速度で走れるからと言って、捕らえられるわけじゃないからね。


 ―――でも、さ……?


 小玉ゆえの体力の低さかもしれないし。

 小さい程に攻撃が当てにくいというのも分かるけど。


 この防御と体力なら。

 案外、私でも倒せるんじゃないかな。



「―――んじゃ、散開だ! 各自でおっぱじめろ!」

「「らじゃ!」」



 ……………。


 ……………。


 ギルド長の声に、景気よく声をあげる盗賊たち。


 しかし、何故か。

 誰も遠くへ行こうとしない。



「………おい、散開」

「スイカより花が良い!」

「美少女たちと火遊びしたい!」

「「花火! 花火!」」

「夏の想い出にデカいのを撃ち上げたい!」

「某たちは、義賊なれば。武士道という事は女子供をお守りする事と見つけたり!」


「……んじゃ、行こっかルミねぇ」 

「私達はあっちでやりましょうか」

「んう……?」

 


 ワイワイと言い合っている傍らで。

 コートをクイクイと引っ張られる私。


 どうやら、少女二人はやる気満々みたいだけど。



「大人数の方が連携も取れるし、効率が良くないかい?」

「いや、漁夫られるし」

「山賊さんですからね」

「信用できん、アレは」

「だって、チャラオですよ?」


「………はぁ。――ルミねぇは、どうしたい?」


 

 重ねるように、次々捲し立てる四人だけど。

 ユウトだけは呆れたように是非を聞いて来て。


 私は戦闘要員じゃないし。


 応援が主の筈なんだけど。



「私が決めちゃって良いのかな……?」

「「良いの」」


「――キュキュ―――ッ!!」

「……じゃあ、各々が自由に楽しむという事で」



 個人行動も良し。


 誰か行くも良し。


 合意の上なら問題ないと。

 目の前を通り過ぎて行ったスイカに気を取られつつ、皆に返す。

 こういうのは楽しんだ者勝ちさ。



「……行かないの?」

「「此処が良い」」

「―――じゃあ、そういう事で。……私もやろうかな」



 先程ああ言った手前。

 決めた事に口出しはしない。


 で、折角来たんだから。

 予定の前に、少しくらい私も遊んでいきたいよね。


 ……………ふむ。


 ……………ふむ?


 硬いブーツの感触で。

 硬い地面をコツコツ。


 踏み固められていると言っても。

 振動が逃げていく地面だと、どうにも音が鳴らないね。


 ゆっくりとペースを上げつつ。


 私は一匹のスイカに狙いをすます。 



「あの、ルミさん……?」

「何でタップダンスを?」

「ルーティンさ。こうすると、気持ちが整って――そら―――っ」



 足を鳴らしながら。


 私は、白爛を投擲。


 投げた短剣は瑞々しい体表へ吸い込まれ。

 切っ先が、見事に真ん中へヒットする。



「―――ピギャぁぁぁあ!!」

「「――鳴き声キモッ―――!」」



 で、スイカ君は大破した。

 それはもう、暑さで弾けたかのように。


 赤い果汁も出たし。


 凄く野太い声だね。

 まるで、大の大人がそのまま断末魔の肉声を録音したような……。



「―――三下感ヤバいよね、アレ」

「というか、マジで当たった……」

「ふふん。よく、おしゃれなバーでやってね」


「……まさか、ダーツ?」



 そうそう。


 タップダンスを踊りつつ。

 真ん中に命中させると、随分と場が盛り上がったものさ。



 ―――と、すぐ傍で二つの飛沫が上がる。



 レイド君とユウトだね。

 

 両者とも、良い気迫だ。



「―――最短の距離、一瞬の隙。それだけだ」

「―――良いねぇ、俺の大好物だ」



 競うような二人の掛け合い。

 でも、やっている事は逃げるスイカを追っているだけって、美味し……面白いね。


 レイド君は能力値が凄いから分かるけど。

 ユウトはどうやってスイカを……おぉ……?


 近くで幾重もの大爆発が起こる。


 これは恐らくショウタ君の……。



「――――“紅蓮咲き”連発だぁぁぁ!!」

「「みぎゃぁぁ!?」」



 ―――やっぱり、ロマン砲さんだ。 



 魔法は効かない筈だけど。


 彼の狙いはそこではなく。



「―――良いぞ、将太」

「そのままヨロ!」



 爆風に煽られて飛んだスイカ。

 又は、視界が塞がれ、逃げる方向やPLの位置を見失ったスイカ。


 そういう子たちを仲間に狙わせている訳なんだ。

 的確に分析したユウトたちは、見事な連携でスイカ割りを……ね。



「どこ行くかは見極めずらいっすけど、自由に逃げられるよりはマシなんで」

「うん、よく考えたねショウタ君」

「――いやぁ……へへへ」

「考えたの優斗だけどね」


「―――ぬぬ……ぅ! ルミねぇ! 私も出来るよ!!」



 何かに感化されたのか。


 そう高らかに宣言したナナミ。

 彼女は、陸上選手もかくやの急な前傾姿勢を取り、短剣を構え。



「―――ニンジャ――――ッ!!」

「ピ……!」



 狙いを付け、一瞬にして肉薄。

 

 振るう刃でスイカを二分する。


 でも、荒く息を吐きだして。

 随分無理をしたみたいだね。


 

「はぁ……はぁ……どうよ……! これがニンジャの実力……!」

「ジャパニーズニンジャ……!」

「へぇ……やるな、ナナミ」

「えぇ。あそこ迄の姿勢をとれば、転ぶ可能性も非常に高いですが。天性の平行、戦闘センスですなぁ」


「盗賊さん達はお呼びじゃねーです!」



 彼女の動きを見て。

 手放しに褒めるレイド君とタカモリ君だけど。


 本人は刃をブンブン振って牽制。


 どうやら、お褒めは不服らしい。



「褒められるのは大好きの筈だろう? ナナミ」

「ルミねぇ限定」

「ふふ……沢山スイカ割りできたらね?」

「「うっしゃぁぁぁ!!」」

「おい、賊共」

「あんた等じゃないからな?」



 何だかんだ仲が良いじゃないか。


 これなら、心配はいらないよね。



「―――じゃあ、この辺で。ちょっと私は都市に戻るから」

「「え……?」」



 何でそんなに残念そうなんだろう。



「ちょっと、ルミねぇ! まだまだこれからなんだけど!」

「「そうだそうだ!!」」


「折角考えたプランが!」

「私だけ、まだ良い所見せてません!」


「……ねぇ、優斗」

「ほっとけ航。俺たちだけでも真面目に狩るぞ。……ルミねぇ、何か予定でもあるのか?」

「「おい」」


「ふふ……大人の都合さ」



 スイカ割りも、楽しそうだし。


 投げナイフの練習になるけど。


 先約がある事だし。

 急いで行かないと、間に合わなそうだからね。

 スイカさん達よりも大暴れでブーブー騒ぐ皆に一旦の別れを告げて。

 


 ―――――いざ、私の戦場へ……と。

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