第21幕:イベントの楽しみ方(夏編)




 参加する? 参加しない?


 する、しない、する……。



「―――うう~む……? 難しい問題だね」

「ルミねぇ……?」

「何やってんだ?」

「うん、ちょっと鏡とかを使った実験を……ね」



 角度を変えたり。


 光を反射したり。


 凹凸硝子も沢山。

 ほんの少し厚みを変えるだけで変わるから、調節が大変だけど、うまく使えば百面相。

 

 あと、扱いやすい手鏡とかも数個ある。

 全部、裏庭の倉から持ってきたもので。

 合わせ鏡は都市伝説が面白いし、像を用いた手品なんかも有名だけど……うん。


 小道具としてはあまり使わなかったんだ。

 身に着けているとかさばるし、危ないからね。


 後、ステージの上は。


 反射して目立つから。


 ヒカリを利用する前提で臨まないと、思わぬ事故につながる。

 そう、鏡と硝子はジョーカーなんだよ。



「……でも、良かったのかい? 折角の週末なのに、遊園地にもショッピングモールにも――健康ランドにも行かないなんて」

「謎の健康ランド推し……」

「好きなんすか? ルミさん」



 家の近くだからね。

 

 とはいえ、彼らは今時の学生。

 携帯が手放せず、ゲーム大好きな現代っ子たち。


 旧日本家屋ともいえる我が家で。

 ボードゲームや歓談に興じるのを、そこまで楽しいと感じる世代ではないと思うんだけど。


 コロコロ……コロリと。 


 今度はエナじゃなくて。


 投げられるのは賽。

 彼等は、楽しそうにダイスを振る。



「皆、ルミ姉さんと一緒に居たいんだと思いますよ? あ、スペシャル……勿論、私もですけど」

「ほほう? いい子だね、エナ。頭を撫でてあげよう」

「出目もナデナデもズルい!」

「……第七版ルールだから、イクストリームだな」



 良い出目に熱中しながらも。


 彼女は言葉で表してくれて。


 そう言われて嬉しくない人間はいない。

 お返しとばかりに幼馴染の頭を撫でるけど、変わらずサラサラだね、君。



「――あぁ!? 致命的失敗ファンブった!」

「ザマミロメイガス」

「神話技能50のPCロストってマ?」



 いま、彼等がやっているのは。


 TRPGというアナログなゲーム。


 その中でも、特に有名なものだね。

 

 私も、昔は皆とやって。

 マイナーなモノも幅広く扱っていたから、自宅にはルールブックが山のようにあるんだ。



「―――でも、ルルブさんを貸したのが五月で。よく、そんなになるまで遊んだね?」

「……だって、楽しいし」

「ロールプレイ大好きですし」

「別売りの友達も買えたし!」



 それは、大変結構な事で。

 こういうゲームは、友人が別売りだから、中々手が出しにくいんだよね。


 ……………。


 ……………。


 実に、ゆったりとした時間。

 強い日光が差し込むけど。

 冷房の利いた部屋の中には、楽しそうにキャラクターを演じる笑い声が響いて。



「――青春してる感じしますよね」

「本当に、良いよね」

「友達居て良かった……うぅ……」

「許されるなら、ずっと青春だけしてたいよねぇ……」



 切ない事をいうナナミだけど。


 分からなくはない気持ちだね。


 

 ―――でも……そうなると。



「貰い手がなくなるよ?」

「その時は、ルミねぇに養ってもらうから」

「……良いですね」



 ふふ――困った子達だね。

 

 その時は、どうしようか。


 それも賑やかで良いけど。

 私自身としては、三人にはちゃんと幸せになって欲しいんだ。



「私よりも、ユウトが貰ってあげれば良いんじゃないかい?」

「別に、それでも良いよ?」

「生活に困らなそうですし」

「………なぁ、二人共。夏入ってんのに脳内春真っ盛りのお花畑どもを貰ってくれんか?」


「「……………」」



 幼少期からの長い付き合い。

 幼馴染だから出来る会話。

 互いが、互いを家族のように思っているからこそ、交わせる言葉。


 その飛び火を受けた男友達の二人は。


 とても恥ずかしそうに。


 赤らんだ顔を逸らして。



「――あ――あぁ、そういえば……!」

「何だね、我が大親友航クン!」

「「逸らしたね」」

「ふふ……どうかしたのかい?」

「数日前に発売したみたいなんですけど、ルミさんってこういうの読みます?」



 この状況を打破するためなのか。

 ワタル君が、カバンをゴソゴソ。


 見せてくれたのは。

 

 ふむ……雑誌だね。


 その表紙には――中々に煌びやかな衣装の……お?


 ……………。


 ……………。



「―――ほぅ。これは、また」

「手品とかが得意なら、やっぱりこれかなって」

「「…………ぁ」」

「ん、どうした? 皆して」


 

 『光の奇術師特集』……と。 


 そういえば、帰国してこの方。

 こういうのを見てなかったね。


 偶に見かける事はあっても。

 色々な記事を目にする事はあっても。


 ここら辺の契約は、サクヤの領分だったし。

 私は殆ど不干渉みたいなものだったんだけど……ふむ、ふむ。写真集みたいだね、これ。


 段上は光に溢れてて。

 反射で見えにくい事も多い筈なんだけど。


 しっかりと仮面の妖しい男が映っていて。


 本当に、良く撮れてるね。

 

 思わず目を見張って紙面を開き。

 流すように写真や文章に目を走らせてみるけど。



「奇術師ルーキスの全てがここにある――か。ははは……随分と」



 引退してから数か月。


 未だに続報があると。


 ……緩やかでも良いから。

 少しずつ、優しく、人々の記憶からモノだね。

 


「でも、とんと音沙汰も無くなっちゃったよね?」

「何処に居るんだろうねぇ」

「案外、ゲーム三昧の日々を送ってたりするのではないですかね?」

「「―――ぶふッ――!?」」



 駄目だよ、皆。

 まだ笑うのは早いんだから。


 別に、秘密でもないけど。

 

 内緒って、楽しいからね。 



「―――ゲーム三昧……ねぇ?」

「やってんのかねぇ?」

「どうなんでしょうね」



 そして、凄く白々しい。


 白々しくも、可愛いね。



「んでんで、ルミねぇ? ゲーム三昧と言えば、海岸都市の方はどうよ。新種の果物沢山で喜んでくれるかなーとは思ったんだけど、それ以外には何かやってんの?」

「それ、凄く気になりますね」



 どうやら、ナナミとエナは。

 ゲーム三昧の奇術師が何をやっているのか気になるみたいで。


 宜しいとも。


 教えて進ぜよう。



「この前は、海賊団に体験入団したんだ」

「「……………?」」

「でも。やっぱり、無職に力仕事は厳しそうだったね」



 何故、皆で首を傾げるのか。


 ちょっと、分からないけど。



「――相変わらず、ルミさんは面白いことしてますね」

「皆はやっぱりレベル上げかい?」

「そう! 3rdに上がれたからね!」

「見敵必殺!」

「ニンジャ!」

「前にも増して、血の気が多くなったって言えば、その通りかもです」



 ―――驚く程、分からない説明。

 これもこれでよく分からないね。

 流行の波を泳いで行けない心境……やはり、荒波を征く海の男にはなれなそうだよ。


 でも、ナナミはやっぱり。


 忍者さんになったのかな。



「イベントクエストの内容も、昨日の告知で確定したし」

「PLも色々やってるよね」

「どういうコネなのやら」

「確かに、どういう経緯なのか気になるね。都市側と合同で、大規模ギルドがミズコン――なんて主催するらしいし」



 うん、知っているとも。

 水着コンテスト――ミズコン。

 

 イベントクエストに直接の関係はないけど。

 目玉の一つとしてPL、NPCの両間で認知されているらしく。


 知らない筈だったのに。


 いつの間にか参加方向。


 どうして、こうなったんだろうね?

 おおよそ、面白そうだからってその場でサインした誰かが悪いんだろうけど。



「まあ、頑張ろうね。夏休みの予習みたいなものさ」

「割りまくってやるぜ!」



「「―――スイカ割り大会――――っ!!」」

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