第18幕:転生先は慎重に
「――ドロップ――ロブフィッシュの切り身」
果たして、食べれるのか。
それが一番の問題だよね。
前に一度、私はこのアイテムを見た事がある。
当時から魔物の肉だっていうのは知っていたけど……まさか人面魚。
魚人さんの切り身だったなんて。
増してや、彼等は
恐ろしきカニバル。
バルは、バルでも。
私はイタリアのやつが良いなぁ。
「……ねぇ。何でイタリアなの?」
「それは――何でですかね、優斗」
「そっちでいうバルってのは、喫茶店とか酒場って意味だからな。スペインとかもそうだけど、好みだろ」
「そうそう。向こうの喫茶はカプチーノが美味しくてね」
所謂、行きつけの店舗で。
勿論、海外にもあるけど。
学生時代の行きつけの喫茶店は、あのショッピングモールにも一つ在ったんだよね。
……そういえば。
確かめてないね。
ユウトたちと再会して。
嬉しかったから、すぐに帰っちゃったんだよ。
―――そっちは、その内確かめるとして。
「これ、どうするんだい?」
「……売却ぅ……です…かね。僕たち料理系のスキル持ってないので」
「調味料もないしぃ……?」
「切り身しか持ってねぇ!」
「後は、贈り物として魚人PLにでもあげるとか……?」
本当のカニバじゃないか。
でも、そういう冗談が言える友人が居るんだね。
「――魚人PLというと、転生だよね?」
「そうそう。この種類は、結構簡単な転生条件らしいから」
それは大変結構なんだけどね。
女性PLには人気が出なそうで。
何故、美人な人魚さんという選択肢が――うん。
脚が無くなったら陸で冒険ができないし、魚人だけなのも当然の帰結か。
「以前に種族アンケート見たけど、魚人に成ったってPLは、サーバー全体でも数百人もいないらしいな」
「……エルフが多すぎてなぁ」
「希少種の癖に飽和してるよね~?」
そこはやはり、人気の差で。
私だって選ぶならエルフだ。
後は、転生のデメリット。
大きなハンディキャップを負うという事もあり得るらしいから、利点が多い基本種族が良いとか。
何にせよ、人の好みで。
そこも、気になる所だ。
実際、どのくらいのデータが存在しているんだろう。
「初期で選べる異種族さんはよく見るけど。今の所、どれくらいの種族が解放されているんだい?」
スタンダードな【人間種】
眉目秀麗である【妖精種】
小さな巨人さん【小人種】
未だ、よく分かっていない【半魔種】
それが基本となる四種族だけど。
ゲームの謳い文句にある通り、【転生】が出来たり、【上位種】への進化なるものが可能なようで。
この魚人というのもそのうちの一つだ。
PLにもなっているそんな種族を。
切り身にするのは、流石にどうかと思うけど。
PLだって、キルされればアイテムは落とすし。
あまり変わらない―――のかな?
「……アンロックされてる種族――ねぇ」
「えぇ……と……?」
「――どうだったっけ?」
「攻略情報を大ぴらにしたくないって、秘匿してる連中もいるからなぁ。完全に転生法が分かってる種族は確か……【魚人種】と【死霊種】……あとは【妖魔種】くらいか?」
「――ほう、ほう?」
動き出した馬車の揺れに身を任つつ。
皆が口々に語る情報から、正確なモノを紡いでいく。
まず、ぎょぎょーな【魚人種】
さっきの魔物さんたちだよね。
人間種から転生できて、水に生きる種族らしく。
水属性の攻撃に補正が出たり、その関係の魔法攻撃に強かったりと、お得な種だ。
しかし、欠点として。
ちょっと、外見が人間離れしているね。
【死霊種】は全種族共通の条件。
所謂、ホラーなゾンビさん達だ。
一定期間で、あまりに多くの死亡を経験することが条件らしいけど、ある程度の魔力を所持していないと一向に可能にならないらしい。
特徴は、肌の色が人間離れしてて。
日光の下だと、凄く弱体化する事。
【妖魔種】はエルフの派生。
ほぼダークエルフさんだね。
妖精種の状態で死霊術士とか、魔女とかの所謂【外道魔術師】なんかを取ったり、同族を沢山キルすると転生可能になるらしい。
肌の色が白から浅黒く変わり。
髪の色とかも変化するみたい。
「――後は、攻略優先の上位ギルドの中には【吸血種】とか【竜人種】ってのがいるらしいし」
「運営が公式で呟いてた情報で、【機人種】なんてのもあるとか?」
思ったより沢山いた。
何で、今まで会わなかったんだろうね。
死霊種とかはともかく、魚人種とか妖魔種の子はすぐに分かると思うんだけど。流石に、上位ギルドの人たちはお近づきじゃないから仕方ないかな。
「――そういうの、御者さんも何か知っていたりするかい?」
「……そう来たかぁ……!」
「ルミさん、NPCにもススッと行くよなぁ」
「知らん人とはあんまりなぁ」
「普通に、僕達が攻略優先の人見知りプレイしてるからだよね」
人見知りは、いきなりNPCに殴りかかったりしないけどね?
相手が相手でも礼儀はあるよ。
でも、私は
普段からお話するからね。
私達と殆ど違いがなくて。
やはり、凄い技術だよ。
問われた彼は、安全の為に前を向いたまま首を捻り。
「長らく帝国と王国の街道を案内してますが……そうですねぇ? あっしは会った事がないですが、薄明領域には獣の氏族が住んでいるという吟遊詩人の話くらいは」
「――おぉ、獣人さん」
「あくまで、うた物語の逸話ですがね」
こんな世界だから、居るかもね。
むしろ、PL内で話題にならないのがおかしいくらいだ。
「――獣人、全く情報無いんだよなぁ」
「考察のしようもな」
「居る筈なのにね?」
「周年記念に実装……なんて俗説まで出てきてるし」
「――俗説? ふふ……っ」
今は、ゲームでもそういうのがあるんだね。
でも、動物と言えば。
外せないのが二人だ。
「エナとユウトは、動物全般が大好きだもんね?」
「はい! それはもう……ふふ」
「……嫌いじゃないな」
「――私だって――うぅ……まぁ、小動物なら」
対して、ナナミは。
昔から苦手なんだ。
犬に吠えられたり、猫に引っ掻かれたり。
そういうのを繰り返しているうちに、苦手意識を持ってしまって。
出会うと、互いに「シャー!」する事が多い。
「――ショウタ君とワタル君はどうだい?」
「僕はネコ派ですかね」
「俺はイヌ派なんで……やるか?」
「――この距離なら、僕の方が速いよ?」
「手を貸そうか、将太」
「航君。合図があれば、いつでも撃てますから」
―――あぁ、いけないね。
戦争の引き金を引くつもりは無かったんだ。
「どうする? ルミねぇ。共倒れ狙い?」
「まさか。今に、彼等の所にも平和の象徴が――ホラ」
「「………ぁ」」
「「ホホ――ホホホ……ホ?」」
召喚していたハト君達を、皆の頭の上へ。
同時に操作するのは中々にコツがいるけど、これも訓練さ。
動物好きを自称する彼等が、まさか。
可愛い彼等を押しのけて戦争はしない―――よね?
「……ふッ。取り敢えずは講和だな」
「「異議なし」」
「――チッ。不発か」
「いけない黒幕さんだね。――で、やっぱり皆も気に入った種族に転生する予定はあるのかい?」
成るのと愛でるのは違うけど。
貴重な体験には違いがなくて。
彼等は、それぞれ。
思い思いに想像を膨らませている様子だ。
「……あぁ。やっぱり、俺はこのままでいい。特別な種族は見るだけで十分だ」
「僕も。今の所予定はないですね」
「私は獣人さんが出てくれば――ですかね」
「う~~ん。魔術師っぽい種族模索中っすかねぇ?」
「私は―――」
「なぁ、ナナミン。【猿人】っていると思うか?」
「――あぁ! バナナが大好きな――進化どころか退化してんじゃん! バカ優斗!」
ワイワイと賑やかに転生談義。
これもゲームの醍醐味、かな。
加われる事を嬉しく思い。
耳を傾けつつ、流れていく雲に美味しそうなリンゴ型を見つける頃。
「さぁ、御客さん。そろそろ街が見えてきやすよ」
御者さんの言葉が耳を撫で。
私が視点を進路へずらすと。
「――どうですか? ルミ姉さん」
「……海岸――ほぉ……確かに、コレは素晴らしい景色で……」
「「景色で……?」」
「ズルいね、皆。こんなに良い所を私に隠してたなんて」
「「――えぇぇぇ―――っ!?」」
勿論、今の理不尽は冗談だけど。
もっと早く訪れてみたかったというのも間違いじゃない。
―――それは、常夏の景観。
遠くに見える海は
幾つもの大型帆船が行き来し。
やがて見えてきた道行く人々の恰好は、動きやすさ重視のクールビズ。
独特な形状の樹木は――うん。
ヤシ科の植物を彷彿とさせる。
今までの円形の街並みとは大きく異なり。
細く、長く……本当に海に沿うようにして配された街。
そして、遠くの崖際。
灯台があるような場所には、古風で、砦の様な建物――恐らく、領主の館が建っている。
確かに、これは。
誰が見てもそう名付けるのにためらいは無い。
「――此処が、海岸都市なんだね?」
「そそ、名前はリートゥス。王国貴族の伯爵が治める重要都市だよ」
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