第6幕:観光のフォディーナ



「むむ……迷うね。随分と入り組んだ道だ」

「それが面倒なんだー」


「一応、クエストだし」


「【鉱山都市】の入り組んだ道を覚えるための、チュートリアルみたいなものですからね。でも、難しいのはここだけです」

「じゃあ、後は楽勝ってやつかい?」

 


 景色を楽しみながら、皆と歩く。


 クエストを進めながらだけど。

 これは、さながら観光だ。

 現在私が挑んでいるのは、一人一回まで進めることが出来るイベントストーリーらしくて、誰でも出来るようなおつかいクエスト。


 割のいい報酬が用意され。


 攻略サイトでも推奨されるようなクエストは、どの都市にもあるらしい。



「この景色、トラフィークとは全く異なった外観だね。下町感があって、とても良いよ」

「オープンワールドにしてこの規模は、本当に凄いよね」


「しかも、凄く広いし」

「……これで、一つの都市だしさ」


「流石は帝国様、人界最大の国家だ」

「変…じゃなかった。鉄血候も、随分な庶民派さんだっていうし、こういう独特な街並みも、そういう所なんじゃないかなぁ?」



 【鉄血候】さん

 フォディーナの領主様だね。


 私の知っている情報によれば。

 この帝国には。

 通常の貴族の上として、皇帝が信を置く四人の大貴族がいるらしく。


 彼等は、独自に強力な手勢を保有する。

 トラフィークの【牙兵団】などはその最たる例。彼らが治めることで確固たる地位を築いている、国家を支える大基盤。


 それこそが、四大都市。



 最西の【通商都市】トラフィーク



 北部の【鉱山都市】フォディーナ



 後は、南部の【学術都市】と東部の【要塞都市】がある。

 

 特に、東の【要塞都市】は。

 別領域との境に位置しているため、重要視されているとか。



「帝国の重要都市はその四種類だけど、小人種なんかは王国側の重要都市から開始する場合もあるって言うね」

「ランダムスポーンってやつ」

「俺達、皆人間だけどな」

「フム…フム。確か、人間国家は帝国、王国、皇国の三種類だったね?」


「そうですね。現在、皇国は閉鎖されてますけど」

「人間同士で協力はしているみたいだよ」



 協力は、外部の脅威があるからね。

 それは、強大な敵。

 【魔族】に対抗するために、ある程度の連携はしているらしいけど、それでもやっぱり小さないざこざはあるらしくて。

 現在は、何処も優秀な人材の確保に忙しいらしい。


 ……今は準備期間。


 それは、私たちもだろう。

 プレイヤーはそのまま冒険家として世界を巡るか、何処かの国へ定住したり仕官したり…自由に選択することが出来る。

 戦力争いに身を投じることだってできるのだ。


 オープンワールドとかは。

 自由度の高さが売り。

 でも、それがVRともなると。


 現実と遜色のないフットワークで動けるから良いね。



「今回の舞台となるのは【フォディーナ】を入れた四つの重要都市。中には現在の最前線となっている王国側の都市も含まれていて、トップ層はそちらに集中する筈」


「でも、私たちはこの都市です」


「逆に、敢えてね?」

「……ふむ。そこは、身の丈に合った場所を選ぶのが吉なんだ」



 どのようなイベントにせよ。

 

 それぞれ、難度が異なる領域四か所で行われる。


 だから、自由で。

 敢えてこっちという選択もアリだね。


 ………。


 ………それで、このクエスト。



 もう、佳境みたいだ。



 細い通路の、完全な突き当り。

 もうこれ以上逃げられないような角に、彼は居た。



「ケケケッ……。冒険家が嗅ぎつけてきやがったか」



 人目を忍ぶような黒の外套。

 特徴も何もないような彼は、これ見よがしに笑っていて。


 まぁ、どう見ても。


 如何にもな不審者さんだ。


 近づくユウトたちに構わず。

 彼は、余裕たっぷりに口を開く。



「まぁ、聞けよ。俺こそが 帝国の陰を支配するノクスの構成員ジュゲム様――グエッ!?」

「「話が長い(です)」」



 ……えぇ。



「ちょ!? ――まってッ!?」

「疾く失せい」

「いや、話きい――」

「おらぁッ! はよアイテム落とせや!」

「しまいにゃ脳天割ってストローでちゅっちゅすんぞゴㇽァ!?」


「……ばん…ぞ…く……ガクッ」



 これは、ちょっと…うん。


 なんて残酷なんだ。


 まだ話の途中みたいだったのに。

 五人は寄ってたかって盗人君を囲むと、一息のうちに殴り倒し。


 武器も使わず。

 寄って集って殴る蹴る。

 ただそれだけで、彼はポリゴンの波に飲まれて…消える。



「……幼馴染と、そのお友達が不良の道へ入ってしまったんだ。教師として、年長者として、私はどうするべきなんだろう」

「――ルミねぇ?」

「弁解させてもらうと、あの盗賊NPCずっと話してるんです」

「30分まで粘ったプレイヤーもいるらしいけど、その後最初にループして話し始めたとか」


「おや、そうなのかい」



 ならしょうがないよね。

 私も、校長先生の長話は苦手だったから。


 でも、本当にあっけない。

 抵抗らしい抵抗もせずに倒せてしまったわけだし、実質的には戦闘イベントという訳でもなく。本当にこれで終わるというなら。


 とても、有情なクエストだ。 


 まだ、何かあるかと。

 私が身構えていると。


 敢え無くシステムウィンドウが現れる。




―――――――――――――――

Quest clear【ジュゲムな盗賊】


 姑息な盗人を討伐しました。

 お話は最後まで聞きましたか? 


【Quest報酬】

・1000アルを獲得

・キュアP(×2)を獲得

―――――――――――――――




 キュアP…ね。

 三分クッキング的な。

 マヨラーが好きそうな名前だ。


 ポーションだと長いし。


 リソースの軽減かな?



「…でも、本当にこれだけなんだ」

「報酬良いでしょ? すっごく楽だし」



 そりゃ、楽だろうね。

 裏路地で、一人を囲んで。

 

 皆で虐めただけだもん。


 職業的に、立場が逆だと思うけど。



「1000アルは固定で、アイテムは盗みに入った店によって変わるらしいんだ。俺たちの時は鍛冶素材だったけど、ルミねぇは?」

「マヨ――ポーションだね」


「「まよぽーしょん?」」

「そりゃ、新種のアイテムっすか…?」



 ああ、間違えた。


 新種じゃないよ?


 そこを間違えないように弁明すると。

 ユウトたちも思う所があるらしく、皆で笑っていた。


 報酬が変化するシステムか。


 実に面白いね。

 盗みに入ったという事は…もしかして。

 あの薬屋さんから?

 他にもお店はあるだろうけど、そう考えるとちょっと面白い。



「うっし、目的達成だし――帰るか」

「「りょ」」

「……あ、そうか。終わりか」



 凄く楽しかったんだけどね?


 何か、ちょっと。


 どことなく。

 消化不良な気が、しなくもなかった。




  ◇




「――ふいー。お疲れさんっと」

「結構歩いたな」

「観光はどうでしたか? ルミ姉さん」



 街並みをじっくりと見学して。

 裏の方も行ったしね。

 やはり、案内してくれる人と一緒で。話も弾むから、歩いているだけでも楽しいんだよね。


 宅を囲んで身体を休め。


 皆で、雑談に興じる。



「うん、中々に満足したよ。何より、こうしてワイワイと遊べるとね」

「見慣れた景色だけど」

「新しい発見がありますよね」


「ま、歩いてるだけでも楽しいもんだ」

「――特に、何事もなく帰ってこれたしね」



 ……あれ?

 ジュゲム君、いなかったことにされてる。



「ねぇ、君たち。何か忘れてないかい?」

「「あッ!」」

「そうだったッ! ――対策会議!」


「完全に抜けてたわ」


「ありがとうございます、ルミ姉さん」

「……そうだね。思い出したようなら、良かったよ」



 違うね、そっちじゃないね。



「でも、時間がアレだね。今日はそろそろログアウトしなきゃだけど、どうしよっか? 向こうで集まった時とかにする?」


「学校も始まりましたしね」

「それがベスト、か」


「やるからには、ちゃんとしたいな」

「うん。狩場をどうするかとか話し合いたい」


「……良いけど、場所は?」

「最近じゃ、ファミレスとかもうるさいからなぁ。誰かの家でやるにしても…ね。大所帯だと迷惑だろうし」



 案外、難航しているみたいだね。


 場所がないというのは確かに。


 人の迷惑にならず。

 苦情がこないようなスペースで。

 リラックスして、歓談できるような場所…か。


 ―――そうだ。


 一つなら、心当たりがあるね。



「なら、うちでやるかい?」

「「!」」

「ルミねぇの…おうち!」


「……良いんですか?」


「郊外の一軒家だから、静かでいい所だと思うんだけどね。私は一人暮らしだから、気を使わなければいけない人もいないし」



 電車代はそこまで高い訳でもないし。

 この現代っ子たちなら。

 何とでも、工面することは出来るだろう。


 何より、この子たちも。


 みな、その気になっているようだし。



「だけど、本当に良いのか? これで俺たちは騒がしいだろうし、もし学校の奴らに見られたら変に噂をたてられるかも」

「……噂、は…確かに」

「面倒な奴らがいるのは確かだろうなぁ」



 慎重派がいるのは良いことだ。

 それだけで。

 子供たちは、大きく安全を得られるから。


 でも、ユウト?


 私は、ただの無職じゃない。

 ちゃんとした、大人さんなんだよ?



「じゃあ、勉強会ということにしようか。それなら、大丈夫だろう?」

「「あ」」

「……ルミねぇ、先生じゃん」



 何もおかしなことは無い。

 殊勝すぎる気もするけど。

 テストだって、そこまで先という訳でもないしね。

 

 ワイワイと皆が話し合い。


 ユウトも納得してくれたようで。

 固まって話を盛り上げていく皆を見守りながら結論を待っていると。


 やがて。


 全員が、こちらを振り返って頭を下げる。




「「是非、お邪魔しますッ!」」

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