第5話

 現れたのは、ごく普通の男の人だ。僕から見れば、お兄さんという年代。爽やかな白シャツとグレーのストレートパンツを格好良く着こなしている。僕もあんな大人になりたい。レンズの色が少し濃い眼鏡をかけている。僕みたいなブルーライトカットの眼鏡だ。

「がぁこさん、こんにちは」

 お兄さんは、お坊さんみたいな人に声をかけ、お坊さんみたいな人は立ち上がって会釈をした。

「これはこれは、及川さん。お早いお越しで」

「珍しく、定時で仕事が終わったんです」

 及川さん、と呼ばれたお兄さんは、僕達に気づいて眼鏡をくいっと上げる。

「なんだ、先生か。若い子にちょっかい出してるんですか」

「なんだとは、なんだ! ちょっかいなど出していない! あんたこそ、こんなところで何をしているんだ! お役人が副業か?」

 メーデル・ハーデルが、お兄さんにマシンガントークを繰り出す。先生と呼ばれているんだね。

「人聞きの悪い。ただのボランティアですよ」

 お兄さんは、メーデル・ハーデルをさらりとかわす。それから、僕なんかに頭を下げてくださった。

「初めまして。市役所広報課の及川といいます」

 僕も挨拶しようとしたが、メーデル・ハーデルに阻まれてしまった。

「及川さんよ、あんた、この胡散臭い琵琶法師のこと知ってんのかい」

「がぁこさんは胡散臭くなんかないですよ」

 お兄さんが、がぁこさん、と呼ぶのは、琵琶を奏でていたお坊さんみたいな人だ。

 お坊さんみたいな人は、「どうも、がぁこさんです」なんて気さくに自己紹介をなさる。

 がぁこさん、メーデル・ハーデル、及川お兄さん、僕。

 今、この場には、4人いる。

 もしも近くを通る人がこちらを見たら、お兄さんと僕しか見えていないだろう。

 がぁこさんは、メーデル・ハーデルと同類の存在。幽霊みたいなもの。でもなぜ、琵琶を奏でるお坊さんみたいな人が神社にいるのだろう。

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