第6話

夜が来るたびに、どうしようもない虚無感に襲われた。伝えられなかった言葉たちが、天井にまとわりついて泣きだした。

 息をしているだけで、ふいに胸が苦しくなり、目の前が滲んだ。そのうち、どこに向かって歩けばいいのかもわからなくなった。

かけられていた魔法は全て解け、明るく華やかだった世界はすぐに色を失った。

私はまた、独りぼっちになった。

「明日もまたこの人の隣で吹かせて欲しい。」

そう強く思えたから、音楽だって頑張ることができたのだ。

ずっと先輩の隣にいることを望んだ。

ずっと、隣で見ていた。

楽器はすごくうまいのに、荷物やプリントの整理は苦手なところ。

 人を元気づけることは得意だけど、自分のことを説明するのはヘタクソなところ。

楽器に対する熱い思いは、自分の中で大切に握りしめているところ。

 知っていた。

コンクールの翌朝、誰もいない音楽室で、独り涙を流していたこと。

人に自分の苦しさを見せず、どこまでも明るい先輩だからこそ、

「結果も出せないのにへらへらしている。」

そう、誤解されていたこと。

たくさんのことを教えてもらった癖に、何の役にも立てなかった自分を恨んだ。

あの時、どうして「いかないでください。」の一言が言えなかったのか。

すっかり腫れた目が、どうしようもなくジンジンと痛んだので、私は静かに目を閉じた。

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