エタノール
永遠を信じていたいと思った。形あるものは全てなくなるなんて言うけれど、それじゃあまるで寂しいだろう。何か一つでも永遠というものがあってもいいと思うのだ、……違うだろうか。
だったら形のないものは永遠なのか。そんなことを思った日もあったが、どうやら違うらしい。心や気持ちも移り変わるものである、それでも永遠を求めてしまう。
この気持ちに嘘偽りなどない、そう信じている。そう信じてもうかなりの年月が経過した、果たして僕のこの感情は永遠なのだろうか。
終わりが来る、それがどうしようもなく怖い。いつか訪れる未来に恐怖して震えることしか出来ない、そんなものは嫌だ。未来を夢みて未来を歩んで、それがずっと続いて欲しい。つまりこうだ、死ぬ事が怖い。
「──さん、こんにちは。今日は起き上がれそうですか?」
とうの昔から、この鼻腔は消毒液の匂いに慣れている。心地良いなんて思わない、常識のようにそこに根付いているだけだ。どうにも今日は調子が悪い、身体はとうの昔から鉛だが、まるでこの場に根を張っているようだった。
「……また明日来ますね」
ああ、待ってくれ。まだ君と話したいことが山ほどあるんだ、行かないでくれ。僕の声帯は空気すら失ってしまったのだろう、もう何も発することが出来なかった。
君にまだこの想いを伝えていない、この気持ちを抱え込んだまま無くなるわけにはいかない。そう考えているうちに肺はどんどん機能しなくなって、空気がどこにもなかった。
藻掻いて、吐いて、目を強く瞑って。物音立てずに苦しむから、きっと誰も気づきやしない。そんなことを思っていた時、ドアが勢いよく開いた。
「……だ、誰か!」
君だ、君だった。もう一度会いたいと思っていた君だった。遠のく意識の中、僕は必死に目を開く。瞳孔が光を取り込んで、目が眩んだ。必死に君を追いかけ視界に捉える。
来世こそは君に想いを伝えたい、そんなことを思いながら静かに目を閉じた。
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