第12話 子猫<完>
夜10時半、「夏の名残の薔薇」の施錠をしながら、3人は鈴菜のことを話していた。
「あの子猫ちゃん、いじめがなくなったらしいの! 良かったわあ。この前、うちにお菓子を持ってきてくれたのよ。冷やし中華のお礼ですって。うふふ、あの子ったら具しか食べてないのに意外と律儀よね。それで、そのときにいろいろ話してくれたのよ。表情も明るくなっていて、ほんと良かったわあ。今度お店にもお礼に来るって言ってたわよ」
「これでひと安心ですね」
「ああん、まーた、ただ働きしちゃったわねえ。ちっとも儲かりゃしないんだから」
「それはしょうがないわよ。だって、ねえ?」
「ええ。ここはそういうお店なんですから」
「やれやれだわね。それじゃ、明日は私はいないけど、店のことは頼んだわよ」
「はい。どうぞゆっくりしてきてください」
「息子さんによろしくね~。お店のことは心配いらないわよ、私たち2人でちゃんと切り盛りできるんだから! ねえ、琉宇那ちゃん」
翌朝、幸恵ママは一番のお気に入りの服を着て、とっておきのジュエリーを身にまとい、とある墓地へと向かった。
墓地につくと、まずお寺さんに挨拶をし、掃除道具を借りて墓石を掃除した。水をかえ、白百合とお手製スイートポテトを墓前に供え、線香をあげると、しゃがんで手を合わせた。
「恭ちゃん、一月ぶりね。元気にしてた?」
墓石を見上げる。
「私は元気よ。お店のほうは相変わらず赤字だけど、何とかやってるわ。いつも力を貸してくれている孝子さんは富豪だし、琉宇那ちゃんは弁護士だし、とっても頼もしいのよ。そうそうこの前、高校生の女の子がお店に来てね。どうなることかと心配してたんだけど、もう大丈夫みたい。恭ちゃんも喜んでくれるよね」
「私ね、恭ちゃんがいなくなってから、生き残ってしまった薔薇は、誰かの助けになるっていう役目があるんじゃないかって思って、お店を頑張ってきたの。でも、そうじゃないかもしれないって最近は思うのよ。生き残った意味を探すために生きてるのね、私」
「また来月に来るね」
幸恵は立ち上がると、夏の名残の薔薇へと戻るべく歩き出した。
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