第11話 子猫

ある朝、久しぶりに登校した鈴菜が教室に入ると、いじめグループの子たちが、なぜか気まずそうに目を伏せた。

いつもと教室の雰囲気が違うことに気づいたが、かといって鈴菜には事情を聞くこともできず、気にするなと自分に言い聞かせながら自席につくと、イジメグループのボスである女子生徒が大股で鈴菜の前にやってきた。


「鈴菜、あんた弁護士を雇ったんだって?」

「え……?」

何の話かわからず、鈴菜は戸惑った。

「ちょっと卑怯じゃない? 私たちは何もしてないのに、ちょっとふざけただけで訴えるだなんてどうかしてる。あんたって誤解してるみたいだけど、私たちはあんたのことをいじめたことなんて一度もないんだから!」

早口でまくし立てるように言われ、鈴菜はますます混乱した。しかし、この奇妙な事態の心当たりが一つだけあった。


――もしかして、あのスナックのおばちゃんたちが何かしたんだろうか?


「訴えたいっていうんだったら、訴えれば? わ、私たちは何も怖くないし!」

「そう……。じゃあ、そうしようかな」

思わずぽろっと口から出た言葉に、いじめのリーダーは目をまんまるにして、口をぽかんと開けた。だが、誰よりも鈴菜自身が自分の言葉に驚いていた。今までこんなふうに言い返したことなんてなかったのだ。そんなことはできないと思い込んでいた。だが、いざ実際に言い返してみると、意外と大したことなかったなと鈴菜は冷静に考えていた。高いと思わされていたハードルは、実際に飛んでみたらびっくりするぐらい低かったのだ。いじめ加害者たちによって、真実を目隠しされていたことに鈴菜は今この瞬間に気づいた。


もうこいつらに負ける気がしない、そう鈴菜は思った。


「な、何よ……。もうあんたとは遊んでやらないんだから!」

震える唇で小学生みたいなことを言い捨てて、女子生徒は早歩きで鈴菜のもとから去っていった。


何がなんだかわからないけれど。

なんとなく胸がすく思いがして、鈴菜はひとり笑みをこぼした。


周囲のクラスメートたちは、笑う鈴菜を気味悪そうに見ていたが、そんな視線など今の鈴菜はまるで気にならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る