第7話 子猫
孝子の住む一軒家はかなりの豪邸だったが、物が散乱していて、どこか寂しく荒れた雰囲気だった。
洗濯物が床に散らばる部屋で冷やし中華の具だけ食べさせてもらい、鈴菜は再びひとりで街に迷い出た。
それが間違いだった。夜まで孝子の家にいるべきだったと鈴菜は後悔した。
街でいじめグループと鉢合わせてしまったのだ。
言葉と視線と含み笑いで、たったそれだけで、鈴菜の心は何度も切り刻まれてきた。
それは、その日も例外ではなかった。
――
店の厨房でまかない用の煮豚を仕込んでいた幸恵ママは、ドアが開くベルの音を聞いて、最初は孝子が入ってきたのだろうと思った。まだ夕方だし、客が入ってくるとは思えず、琉宇那はこの時間帯は勤め先にいるはずだ。
手を洗って、孝子かどうか確認しに行ってみると、しかし、そこにいたのは制服姿の鈴菜だった。
豚肉を煮る醤油の立ちこめる店内で、鈴菜は震えていた。
タオルで手を拭きながら、幸恵ママは鈴菜に話しかけた。
「どうしたの、何か怖いことでもあった?」
鈴菜は首を横に激しく振った。
「腹が、立つ……!」
「ああ、怒りに震えてるわけね」
「一体何なんですか、あなたたち! 町なかでも私に話しかけてくるし、鬱陶しいこと言ってくるし、余計な干渉してきて本当に何なの、気持ち悪い!」
鈴菜は怒りで目つきが変わっていた。
「どうしてみんな私のことを放っておいてくれないの!」
「なんだかストレスたまってるみたいだし、そのへんの椅子でもぶん投げてみる? うちの店ので良ければどうぞ。それでストレス発散したら?」
そう言われて、鈴菜はむっとした。
「何ですかそれ。意味わかんない。私はそんな乱暴なことしません。大体物に当たるなんて、そんな八つ当たりみたいなこと間違ってます」
「八つ当たり、ねえ……、自覚がないのかしらねえ……」
幸恵ママは肩をすくめた。
「それじゃあ、椅子はぶん投げなくていいから、床をモップがけしてくれる?」
「はあ? なんで私がそんなこと」
「今、愚痴を聞いてあげたでしょ。その報酬がわりよ」
「これは愚痴じゃなくて苦情です!」
鈴菜の言い分をとりあわず、幸恵ママは階段下の収納扉をあけて掃除道具を取り出した。
「じゃ、モップがけが終わったら呼んでちょうだい。私は豚を煮るので忙しいの。ちょうど手伝ってくれる人が欲しかったところなのよ。助かるわあ」
幸恵ママはさっさと厨房に戻っていった。
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