第6話 子猫


「あのね、これはおばちゃんのアドバイスなんだけどね。学校で嫌なことがあったときは、家でうわーって暴れてみるのもいいものよ。あと、むかつく奴の似顔絵を描いてみるとね、あらっ、あの人、思ってたよりブサイクじゃない? って気づいて笑えたりするわよ。鼻の穴に画鋲を刺しても楽しいし、壁に貼って、蹴ってみたら結構スッキリするわよ!」

「そんなことできません。親に怒られます」

「ああ、そうよね、普通は親がいるものねえ……」

思わず振り返った鈴菜に、孝子は肩をすくめた。

「おばちゃん、小学生のころに親から捨てられちゃったの。きっと私がおしゃべりで勉強ができない子だったせいね。お金だけはくれていたんだけど、ずっと一人暮らしなのよ。普通はそういう子って施設に入れられるらしいんだけど、おばちゃんのことは誰も迎えに来てくれなかったの。だから頭の洗い方も知らなくて、担任の先生からシャンプーってものがあるって教えてもらって、洗い方も習ったわ。でも、そのときに先生から異様なものを見るような顔をされて悲しかったな……」


鈴菜は黙り込んだ。おばちゃんの悲しい過去なんて聞きたくなかった。自分のことで精いっぱいなのに、そんな重荷になる話を私に聞かせないでくれとしか思えなかった。だけど、もうこのおばちゃんには冷たい言葉を投げつけることはできないなとも感じていた。

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