第5話 子猫

まだ何か話したそうな琉宇那を置いて、鈴菜は店を出た。


外のまぶしさに思わず顔をしかめた。つい先ほどまで地を這いつくばっていたはずの太陽は空に浮遊し、脳天気に輝いていた。



――学校には行きたくない。学校に生きる場所はない。私に行く場所はどこにもない。



鈴菜はまた街をさまよった。



「あらあ、あなた、昨日の子?」

昼前ごろ、鈴菜が公園のブランコを立ちこぎしていたら、見知らぬ女に声をかけられた。大きなパイナップル柄のシャツと、黄色いズボンをはいた老婆だ。


「ごめんなさいねえ、おばちゃんもう年だから、若い子の名前をなかなか覚えられなくって。何子ちゃんって言ったかしら? 子猫ちゃんだったかしら」


「昨日のおしゃべりなおばさん……」

思わず口に出た言葉に、おばさん、孝子はにっこり笑った。

「そうよ、私のこと覚えてくれてたのね、嬉しいわ。おばちゃん、おしゃべりでしょう。昔からそうなのよ。学校でもずっとしゃべっているから先生によく怒られたわ。学校って窮屈よね。あら、子猫ちゃん、今日は学校はお休み?」

その言葉を聞いた瞬間、鈴菜の顔が凍り付いた。ブランコを飛び降りて、孝子に背を向けて歩き出した。

「あっ、待って、おばちゃんったら余計なこと言っちゃったかしら。いつもこうなのよ、変なことばっかり言っちゃうの、でも悪気はないのよ。ごめんなさい」

孝子はしゃべりながら鈴菜についていった。


「いいのよ、いいのよ。学校に行きたくないときだってあるものね。おばちゃんもそういうときがあったわあ。どんなに頑張っても勉強ができなくて先生は怒るし、クラスメートは私を馬鹿にして笑うし、もう本当に悲しくてね、学校をさぼったりしたものよ」

「あの、うるさいんで、ついてこないでもらえますか?」

鈴菜が嫌そうに言っても、孝子はまったく気にしない。

「あらあ、うるさいかしら、ごめんなさい。ちょっと静かにするわね。ところで子猫ちゃん、お昼ご飯ってまだでしょう? おばちゃんと一緒に食べない? おばちゃん、今日のお昼はコロッケつくろうって思うのよ。揚げ物って胸焼けするから、食べるなら昼って決めてるの。夜に胸焼けしたら嫌じゃない?」

鈴菜はため息をついた。

「私、揚げ物って食べないんです。太るし」

太ったら、きっと今よりもっといじめられるから。鈴菜は太るわけにはいかないのだ。

「まあ、美味しいのにもったいない。でも、若いものね、太るのを気にするのもしょうがないわね。じゃあ、冷やし中華にしようか。まだ暑いものね。さっぱりしていいでしょう?」

「麺類も食べません。炭水化物はなるべく食べません」

「ええー! 揚げ物も炭水化物もNGだなんて、それで若者って言えるかしら!? 不健康な食生活は若者の特権よ!?」

「ほっといてください」

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