第12話 美咲ちゃんの秘密

 俺は御子柴平次。どこにでもいる普通の16歳の高校1年生だったけど今は普通ではない高校2年生だ。


 異世界に行って帰ってきた勇者の俺と魔王の伊集院君、そして女盗賊の茜さん。

 俺たち三人は人類の敵から地球を守る使命を与えられたみたいな感じなんだけど今のところ平和である……



 茜さんは3月末に埼玉に引っ越してしまった。残された俺たちはーー4月になって2年生になった俺と伊集院君は理系クラスのおんなじクラスになれた。



 昼休みの昼食後。窓から差し込む暖かな日差しと爽やかな風を受けて伊集院君とまったりしていると。



 「御子柴君、伊集院君。寛いでいるところ悪いけどちょっと良いかな?」



 女子に声をかけられた! 声の方を振り向くと去年同じクラスだった女子バスケットボール部の水無瀬美咲さんだ! 隣にいる伊集院君をチラリと見てみると顔が真っ白になって固まっている。




 伊集院君は女子バスケットボール部の皆さんにトラウマがあって苦手としている。俺たちオタクふたりが「如月茜さんの弱みを握って脅迫している」と誤解されてシメられたことがあるからだ。


 でも俺はその時一緒に居たんだけどトラウマにはならなかった。「勇者」としてのチート能力を持ってて精神的に余裕ができたからだと自分では思ってる。伊集院君も「魔王」なんだからそんなにビクビクしなくてもいいのに。




「うん。大丈夫だよ。水無瀬さん」


「はいいいー。だ、大丈夫でっすうう」



「……伊集院君、そんなにキョドリまくって…… ごめんね、もっと早くに謝らないといけなかったんだけど。ついつい後回しにしちゃった。アタシたち女子バスケットボール部の子たちが伊集院君と御子柴君のこと誤解したこと、ホントにごめんなさい。昨日の夜に久しぶりに茜ちゃんと電話で話をしたんだけど、伊集院君たちのこと誤解したこと謝ってないって言ったら悲しそうにされたんだ」



 そうか。水無瀬さんは茜さんと仲が良くていつも一緒にいたからね。俺たちが茜さんとつるむようになったとはいえ、あくまでも女子と男子だから四六時中一緒に居るわけじゃなかった。水無瀬さんはいまでも茜さんと連絡を取り合っているんだね。



「うん。ありがとう水無瀬さん。俺たちは大丈夫だよ。伊集院君はちょっとだけビビっていたけどもう大丈夫だと思うよ。ね、伊集院君?」


「うん。水無瀬さんが謝ってくれたらなんかホットした。心が軽くなったみたい。ありがとう水無瀬さん。もう大丈夫なような気がする」


「あー、よかったあ! 『いまごろ謝ってももう遅い』とか言われたらどうしようかと思ってたのよ。伊集院君、御子柴君。アンタたちって茜ちゃんがいうとおりの性格イケメンなんだね」



 水無瀬美咲さんは心の底から嬉しそうに微笑んだ! 水無瀬さんは一年の時から如月茜か水無瀬美咲かってくらいの、学年で一、二を争う美少女だ。色白で健康的で活発。典型的なスポーツ美少女。茜さんは転校して居なくなってしまったけれど、天使はまだ居たんだね。ありがとうございます。



「性格イケメンかあ。へへへ。茜さんがそんなことを? いやあ。照れるなあ」


「あはははっ。べつにアンタたちに惚れているって感じじゃなかったからね? わかんないけど」



 水無瀬さんは笑いながら俺たちの希望を粉砕した後にちょっと真面目な顔になって。改めて俺たちに向き直った。



「伊集院くん御子柴君よかったらアタシの友達になってくれる? アンタたちっていい人だし友達になったって茜ちゃんに言ったら喜んでくれると思うし。どうかな?」


「うん。こちらこそお願いします。いやー、茜さんに引き続いて学年トップクラスの美少女である水無瀬美咲さんとお友達になれた! 伊集院君、よかったね!」


「うん。水無瀬さん、友達になってくれてありがとう」



 水無瀬美咲さんは俺たちにSNSアドレス交換をお願いしてくれた! 女子からSNSアドレス交換のお願いをされるとは俺たちもそろそろ最底辺カーストを卒業して2軍くらいには昇格したと言えるかもしれない。喜んで交換させていただきましょうー。




 アドレスの交換というイベントをこなした後に水無瀬美咲さんからのお言葉が。



「ふたりともこれからよろしくね。アタシは文系だから滅多に会わないかもだけど。じゃあこの辺でクラスに戻ります。今日はありがと。またね!」



 水無瀬美咲さんは俺たちに爽やかな笑顔を発動させながら手を小さく振りつつ自分のクラスにもどっていったー。ああ、行ってしまった。













「……御子柴君。見た? 水無瀬さんのステータス」


「うん。見たよ」




 水無瀬美咲さんの帰り際に彼女のステータスを見せてもらった。いつもは見ないんだけど、友達になることを提案されたので念のために拝見させていただきました。


 伊集院君は躊躇なく早々に見たようだったけど俺は会話をしていたから水無瀬さんの去り際になってしまった。伊集院君がキョドッていたのはステータスを見たからかもしれない。




名前 水無瀬美咲

種族 人(女性) 

年齢 17歳  体力G  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

称号 リーナ・フィオーレに憑依している地球人水無瀬美咲の魂の複写元となった人物。




 リーナ・フィオーレに憑依している地球人水無瀬美咲の魂の複写元となった人物!



 魂の複写ってなんなの? 水瀬さんの魂がどこかに複写されているってことなんですか? リーナ・フィオーレさんってどこの誰なんですか? 分からない。





「……御子柴君、今日の放課後に茜さんに相談しようよ。水無瀬さんは茜さんの友達というか親友っぽい訳だし」


「そうだね。そうしよう。俺たちの手には負えない……どうしたら良いのかわかんないしね」





 俺たちは午後の授業が終わったらふたりで伊集院君の家に行って。そして茜さんに電話して相談することにしたのだった。







 水無瀬美咲さんと仲直りしてお友達になった日の夕方に茜さんに電話してみたら不通。SNSでメッセージを送ったら夜の八時頃に返事が。

 なんと茜さんは学校を休んでアメリカ旅行中らしい。今はワシントンに居るんだって。水無瀬さんのことを伝えると日本帰国後に直接会って話を聞きたいということだった。ゴールデンウイークの後半に俺たちが埼玉県T市に行って茜さんと会うことにする。




【5月4日 埼玉県T市】



 高速バスと電車を乗り継いで埼玉県T市にやってきた俺と伊集院君の二人は茜さんと自宅最寄り駅改札で待ち合わせ。そのまま近くのファミレスに直行した。




「御子柴君、伊集院君、わざわざ遠くまで来てくれてありがとう。ここはアタシがおごるから好きなもの注文して?」


「へへ、ありがとう茜さん。じゃ遠慮なくこのパスタセットを」


「僕も御子柴君と同じで」


「じゃあたしもそれにするよ」



 店員さんに注文し終わってドリンクバーで飲み物を取ってきて一息。今日の目的の本題に入る。



「それで、これが水無瀬美咲さんのステータス。何回も確認してメモしたから間違いないよ」



 俺はテーブルの上に水無瀬さんのステータスをメモした紙を広げる。



名前 水無瀬美咲

種族 人(女性) 

年齢 17歳  体力G  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

称号 リーナ・フィオーレに憑依している地球人水無瀬美咲の魂の複写元となった人物。



「これが美咲ちゃんのステータス……人のステータス見ちゃ悪いと思って美咲ちゃんのステータス見なかったから気が付かなかったよ。

『称号 リーナ・フィオーレに憑依している地球人水無瀬美咲の魂の複写元となった人物』

これ、どういう意味なんだろ?」


「分かんないんだけどさ、俺たちが異世界に飛ばされたときって異世界で一年間過ごした訳だけど地球で1秒間しか経ってなかった。

水無瀬さんは俺達と違って異世界に行きっぱなしでまだ帰って来れてないんじゃないかと思うんだ」


 伊集院君とここ一週間ほどいろいろ考えた結果そういう結論に落ち着いた。



「そうか……そうかもね。あの白い世界の女性。たぶん神様だと思うんだけど、美咲ちゃんにも関わっているのかも。でもなんで美咲ちゃんの扱いがアタシたちと違うのか」


「それは……謎だね」



 茜さんはしばらく美咲さんのステータスをジッと見ていたけど、俺たちの方に向き直った。



「二人とも、ちょっと真面目に聞いて欲しいことがあるんだけどさ」


「うん」


「うん?」


「二人とも、アタシのステータスを見てくれる?」



 茜さんのステータス? 急にどうしたんだろう。


 伊集院君の方をみると早速茜さんのステータスを閲覧しているようだーーが、みるみる内に伊集院君の顔が驚愕に染まっていく!


 なんでビックリ? 俺も急いでーー「鑑定」!



名前 如月茜

種族 人(女性) 

年齢 16  体力G  魔力F

魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5

   闇弾5回復5睡眠5ステータス5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

   神託5動物調教5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5老化緩和5

スキル 隠密5窃盗5気配察知5

   お宝探知5罠解除5死んだふり5

   身体強化5毒耐性5麻痺耐性5

   加速5短剣術5格闘5投げる5

   アイテムボックス5鑑定5

   異世界言語(万能)

称号 帰ってきた女盗賊

   亜神(時空)アリスの第4使徒


 !! こ……このステータスは?





「ふふふ! ビックリした? アタシのステータスに書いてある『称号』をよく見て!」


「帰ってきた女盗賊?」


「伊集院君、それじゃなくて! 亜神(時空)アリスの第4使徒って書いてあるでしょ!」



「……確かに。茜さん『亜神(時空)アリスの第4使徒』って書いてある。これって何なんですか?」



「コホン……では説明しましょう! 『亜神(時空)アリスの第4使徒』というのはね……」





 茜さんのお話を要約すると。



 茜さんが転入した高校の同じクラスにアメリカ人が居て友達になったんだけど、その人が神様だった。


 アメリカ人高校生、アリス・コーディ。ものすごい美人で可愛いという。茜さんはその人の紹介で保育園のバイトをするからバスケットボール部には入らなかった。


 茜さんは自分が「異世界帰りの女盗賊」であることや俺や伊集院君のことも教えて吸血鬼とか、宇宙人とか怖いってアリスさんに訴えたら、俺達も含めて三人とも助けてくれるという。


 水無瀬さんのことも何とかなるかもしれないから任せてってことだ。


 ちなみに茜さんは物凄い数の「魔法」と「身体強化」を恩恵として貰ったそうだ。さすが神様、凄い。



 俺たちの心配事って、もしかしてこれで全部解決なんじゃ……




「それでね、アリスちゃんから使徒にならないかって誘われたから、うん良いよって返事してアリスちゃんの使徒になったのよ」



 なるほど、茜さんのステータスに書いてある『亜神(時空)アリスの第4使徒』という称号はそういう経緯で得たものなのか。



「というわけで、ゴールデンウイーク明けにアタシとアリスちゃんで千葉のK市に行くから。その時にまた詳しく相談すればいいよ」




 こうして俺たちはあの白い世界の女とは違う神様とお知り合いになることが出来た。


 俺たちが白い世界の女から勝手に与えられた使命


「異世界から帰還したチート野郎や吸血鬼、死霊使い、そして凶悪な宇宙人がなどの人類の敵から地球を守る事」


は、俺たちがそんなに頑張らなくても果たすことが出来そうである。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



読んでいただきありがとうございます。

御子柴平次君、伊集院平助君、如月茜さん、そして水無瀬美咲さんのお話はひとまずここで完結となります。



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異世界からの帰還者〜手に入れたチート能力は役に立つのか?高校生の俺は現代社会を生き抜く Cranberry @hassy275

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