第11話 初登校

 朝の通勤通学時間帯。多くの高校生が通学のため駅から高校まで歩いている。


 高校2年生だけど真新しい制服に身を包んでいる私、如月茜も埼玉県立T高校に向かっているところだ。今日は4月7日、高校2年生の始業式の日で県立T高校へ初めて登校する日なんだ。



 高校の校門をくぐって玄関で上履きに履き替えてから2年生の教室に向かう。春休み期間中に転入手続きと教室の下見にもきてるから迷うことはない。

 この学校の制服は女子は紺色のブレザーとフレアスカート。千葉県立K高校の女子制服はセーラー服だったから新鮮に感じるな〜。ちなみに男子は学ランで県立K高校とおんなじだ。



 朝の校内は多くの生徒が廊下を歩いているのでぶつかったりしないよう気をつけて二年五組の教室に向かう。階段を上がって二階にある教室の中に入っていく。



 自分の席を探すと廊下側の一番前の席だった。出席番号順で女子の一番目。理系クラスだから女子は少ない。四人しか居ないみたい。




 鞄を机の横に引っ掛けてから後ろを振り向いて既に着席している女子二人の方を見てみる。どんな子達かな? 仲良くなれるといいな〜。私のすぐ後ろ、女子出席番号二番の子はまだ来てない。



 私は席を立って女子出席番号三番と四番の子に近づいて挨拶する。私が千葉県から転入してきた編入生であることも話しておく。良かった、二人ともちゃんと普通に会話してくれるし、いい子みたい。

 自分の席に戻ってから左隣りの男子にも挨拶しておく。この高校には知り合いが一人も居ないからね、早めに友達欲しいし、知り合いも増やしていきたい。


 いちおう、周りにいる人たちに挨拶したのでカバンから筆記具を出して一息つく。



 ……私のお父さんは航空自衛隊に勤めていて頻繁に転勤があるからそれに伴って私たち家族は引っ越しを繰り返してきた。私も小学生の時に2回、中学生になってからも一回。だから転校するのは四回目になるんだよね。

 だけど高校生になってからも転校するとは思わなかったな〜。女子バスケ部のみんなとお別れするのは悲しかったし親友の水無瀬美咲ちゃんとも別れたくなかった。

 それに吸血鬼とか宇宙人とかいるかもしれないし! この辺にいたらどうしよう? 御子柴君と伊集院君に電話したらすぐにきてくれるかな……


 そんなことをあれこれと考えていると!




「オハヨウゴザイマース!」



 大きな声の挨拶が聞こえた!



 私の席の前にある出入り口からの教室に入ってきた一人の女子生徒ーー


 外人だ! しかも、とんでもなく可愛い……欧米系の白人?……身長は私とおんなじかちょい高い? 165cmくらいかな? 

 髪はアッシュブロンドのショートストレートで目の色はブルーグレー。柔らかくて優しい感じで親しみを感じる微笑み……そうか、この子は出席番号二番の子だ!




 超絶的に可愛い出席番号二番の女子生徒は自分の席に座ると後ろにいる出席番号三番の子に話しかけた!

 かなり社交的で積極的な子なのかな? 外国人だからオープンな感じなんだろうか? 私は横座りになって後ろを振り向いて挨拶するタイミングを測る。




「コンニチワ〜。ワタシ。マイネームイズ アリス・コーディ デス。ヨロシクネ〜」



「はは、はいい〜。マイマイネームイズ キムラ ですう」



 出席番号三番の木村さんが挙動不審になっている!頑張って!



「……ははは、ごめんね。普通に日本語話せるんだ。アリス・コーディだよ、よろしくね。アメリカのワシントンから来ました。日本は初めてだからよろしくね?」


「は、はいはい、よろしくです〜」



「出席番号四番の人もよろしくね」



 出席番号四番の田村さんにも手を振って挨拶したワシントンから来たアリス・コーディさんは私の方に向き直って声をかけてくれた!



「こんにちは〜 アリス・コーディだよ。アメリカのワシントンから来たんだ。日本は初めてだからよろしくね?」


「うん。こちらこそよろしく!

アタシは如月茜だよ。アタシもアリスさんと一緒で2年からこの学校に編入した生徒だよ。女子バスケットボール部に入ろうかと思ってます。

アリスさんって何かスポーツやってる?アメリカ人だったらバスケットボール出来るんじゃないかな? よかったら放課後にバスケットボール部の見学に一緒に行かない?」



 ……挨拶していたらナチュラルに放課後の部活見学に誘ってしまった! 何にも考えずに会話するとこんなことよくあるのよね……アリスさん一緒に来てくれるかな?

 アリスさんはチョット考えてからニッコリ微笑んで返事を返してくれた。



「……うん、行ってみてもいいかな? でも私は体弱くてあんまり運動できないかも」


「分かった。とりあえず見るだけでも行こうよ。アリスさんってどこに住んでるの?」


「T市の○△町にあるアメリカ大使館別館だよ。一階に保育園が入ってる」



 その保育園知ってる! 私が住んでいる自衛隊官舎の隣に12階建てくらいの新築マンションが出来ててそこにアメリカ大使館の別館と保育園が入居して今月から保育園が開園してるって話題になってた!



「ええー! そこ私の住んでる官舎の隣りじゃん。お隣さんだね! じゃ今日は一緒に帰れるね。ちょうど良かったわ〜」


「わーそんなこと有るんだね。なら一緒に帰ろう」



「ガラガラ!」



 担任の先生が入ってきた。先生からは簡単な自己紹介と確認事項の伝達がされた後、まずは始業式に行くということで体育館に行って校長先生のお話を聞いてから教室に戻る。

 始業式の間にも色々とおしゃべりをして、お互いに「アリスちゃん」「茜ちゃん」呼びすることになった。やった!これで友達だね!




 ホームルームでは全員が一言ずつ自己紹介をしてからクラス委員なんかを決めてその後午前の授業を三コマこなした後に昼休みになった。

 せっかくだからアリスさんとか木村さん、田村さんたち女子四人で一緒に食べたいな……私がそう提案するとみんな賛成してくれたので女子四人が机を合わせて一緒にお弁当を食べることにする。いただきまーす。


 日本人女子高校生三人は家から持ってきた普通のお弁当だったんだけど、なんとアリスちゃんはハンバーガーセット(ドリンク付き)を鞄から取り出して食べ始めた! アメリカ人だからハンバーガーに違和感はないけどドリンクまで準備してくるとは……そんな不安定で柔らかい物よく鞄に入れてこれたね……



 お弁当を食べながら女子四人は自分達の事をネタにしながら会話を続ける。やっぱり興味の中心はアメリカからの編入生、アリスちゃんだ。木村さんが質問する。



「アリスちゃん、どうして日本に来たの? お父さんのお仕事の関係なの?」


「うん、両親は私が小さい頃に亡くなってね、親戚もいなかったからお父さんの親友だったアメリカ海兵隊の人に面倒見てもらってたんだ……」


「えっ……そうなんだ、なんかごめんね、悪い事聞いちゃったかな……」


「いやいや、全然大丈夫だよ。私が物心つく前だったからその海兵隊の人がお父さんだってずっと思ってたからね。

でね、そのお父さんみたいな人が日本のアメリカ大使館に転勤になるって事で一緒についてきたって訳。

もともと日本に興味があって日本語も勉強して読み書き会話できるようになってたし、本場のマンガとかテレビドラマ、バラエティ番組を日本で堪能したかったから丁度いいと思ったしね」


「そうそう、アリスちゃん日本語メチャクチャ上手だよね、日本人みたい!」


「そうかな? かなり勉強したからね……ありがとう木村さん♡」





 その後、アメリカのどの辺に住んでいたのって話になってスマホの地図アプリで家をピンポイントで表示して「ここに住んでていつでも帰れるように借りっぱなしになってる」って見せてもらった家がとんでもない豪邸だった!


 話を聞くとワシントンの高級住宅地にあるらしい。地図アプリのストリートビューで見ると広い芝生、車が4台くらい余裕な駐車スペース、貴族の屋敷と言っても不思議ではない高級な佇まいの巨大な家……メチャクチャお金持なのか?良いとこのお嬢さんなんですか?



「……HAHAHA! みんな、アメリカに来ることがあったら泊めてあげるね……」



って適当な会話をしていると食事を食べ終えた男子が近寄ってきた。



「あのーアリス・コーディさん? アリスさんってアメリカ大使館の職員で名刺とか持ってるんでしょ? さっき担任からアリスさんの名刺だよって自慢げに見せられたんだけど。僕にも貰えないかな? 記念にしたいと思って」



 まじで?ビックリだよ。アリスちゃんってただの高校生じゃ無かったんだね……どんな仕事してるか聞いてみようかな……



「そうなの? アリスちゃん大使館の職員って凄いね、どんなお仕事してるの?」


「ん? ええと、肩書きはアメリカ大使館の『特任公使付アドバイザー』なんだけど日本との友好関係を深める色々なイベントや事業のお手伝い、みたいな?

そうそう、今度アメリカ大使館で保育園を開園するからそのお手伝いがメインかな〜

まあ、大した仕事ではないよ……」



 話を聞いている生徒一同はしきりに感心している。大使館のアドバイザーで名刺まで持ってるなんて凄い。なんか雲の上の人のような感じがしてきた。


 アリスちゃんは鞄にゴソゴソと手を突っ込んで名刺ケースを出しててケースから名刺を一枚取り出した。名刺を欲しがる男子に渡すみたいだ。



「はい。あげるよ。こんなの記念になるの?」



 アリスちゃんはせっかくだしついでだからと私たち女子三人にも名刺を渡してくれた。

 アリスちゃんの名刺は薄ピンク色で角が丸まっている可愛いもの。アメリカ大使館のロゴが入っていて表は英語で裏は日本語表記となっている。



「ありがとうアリスちゃん、この名刺カッコいいし可愛いね! 家に帰って家族に見せて自慢するよ!」


「へへへ、そうかなあ? ありがとう茜ちゃん。そんなのいくらでも好きなだけあげるよ!」









 こうして私、如月茜とアメリカ人女子高校生アリス・コーディは高校の登校初日にお友達になった。

 そしてその日の放課後は一緒に女子バスケ部の見学をして仲良く帰宅。


 帰宅途中にアメリカ大使館直営保育園のバイトをやらないかって誘われたので保育園に立ち寄ってバイトの説明を聞いてから官舎に帰ったのであった。


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