第8話 如月茜ちゃんの冒険
【1月7日木曜日 千葉県K市】
私は如月茜。女子バスケットボール部に入ってる高校一年生。三学期の始業式の朝、体育館でクラスのみんなと整列して校長先生のお話を聞いていた。
ところが!
気がついたら異世界の16歳の女性に憑依してた!
憑依先の女性は侯爵家の次女で貴族なんだって。憑依した女性の記憶は共有できたので侯爵家次女としての生活は違和感なく家族達にバレることなくスムーズにこなすことができた。バレるとどんな目に遭うか分かんないからコワイし黙っていたんだよ。
この世界には「魔王」とか「魔物」とかが居て私たち人類と生存を賭けて争っている。今の現状は魔王陣営が優勢で私のいるこの王国は領土の半分以上を蹂躙されて風前の灯。私たち貴族家子弟は他国に避難する準備を始めていたのよ。
だけど、最近教会の神殿で神様のお告げがあったらしい。
……この王国の国民5人に恩恵を与えた。勇者、聖騎士、大魔道士、聖女、そして女盗賊。この5人の力を結集して魔王に対抗せよ……
ヤバい! それって私のことだ! 私は「鑑定5」を使って自分のステータスを確認する。私にはステータスが二つあって一つはこの体の持ち主ルイーサ・ヴェルテ侯爵令嬢のステータス。もう一つは地球から飛ばされて魂だけになって侯爵令嬢に憑依している如月茜のステータスだ。
名前 ルイーサ・ヴェルテ
種族 人(女性)
年齢 16
体力 G
魔力 F
魔法 ー
身体強化 ー
スキル ー
称号 ヴェルテ侯爵家次女
名前 如月茜
種族 人(女性)
年齢 ー
体力 ー
魔力 F
魔法 ー
身体強化 ー
スキル 隠密5窃盗5気配察知5
お宝探知5罠解除5死んだふり5
身体強化5毒耐性5麻痺耐性5
加速5短剣術5格闘5投げる5
アイテムボックス5鑑定5
異世界言語(万能)
称号 ルイーサ・ヴェルテに憑依している地球人。
女盗賊。魂だけになっている。
私の称号に「女盗賊」って書いてあるし! でも、なんなの女盗賊って? 勇者とか聖女と違ってアタシだけ弱そうでスキルもふざけている。こんなんじゃ戦う気になれない。隠れていよう。
♢
しばらくして王宮から使者がやって来て私は王都に連れて行かれた。私が女盗賊ってバレているらしい。
問答無用で魔王討伐に徴用されるようだ。拒否権は無かった。私の父親である侯爵家当主は大層喜んでいた。権勢を強めるチャンスだとでも思ったんだろうね。王都では私以外の勇者、聖騎士、大魔道士、聖女は既に集まっていて戦闘訓練を始めていた。
♢♢
魔王討伐の旅に出てからは不潔で危険な異世界の山野において魔物や野盗などと戦う日々が続いた。私のアイテムボックスの中には「盗賊の衣装」と「盗賊の武器防具一式」が入っていた。上下黒の忍者みたいな服に黒い額当てと変なアイマスク。黒い刀身の短剣と投擲用のタガー、そして黒い鞭。
恐らく神様がくれたであろうこれらの衣装と武器防具はビックリするほど性能が良くて御蔭で大きな怪我をすることもなかったのは助かった。
第2王子を狙っている男爵令嬢である聖女は私に対して強い敵意を持っていて、私が怪我をしても治療してくれない。
聖騎士と大魔導士は機会があれば私にセクハラしてきて気が休まることは無かった。指揮官の第2王子は媚びて取り入ろうとする聖女に鼻を伸ばしていて私に興味は無いようだった。
そして一年後。勇者である第2王子が「聖剣」で魔王の心臓を貫いて倒した瞬間に私は真っ白な何もない空間にいた!
そこには年齢が私と同じくらいの女性が佇んでいた。しかし白く輝いていて輪郭がハッキリせず、顔の造作や表情もよく分からない。
しばらくそのままでいるとその謎の女性は私の方に向き直って語り出した!
「如月茜さん。一年間のお勤め。お疲れ様でした。お陰でこの世界は魔王の脅威から解放されました。あなたの成された偉業は侯爵令嬢ルイーサ・ヴェルテの手柄として永遠に語り継がれることでしょう」
「そうなんですか? 分かりました。あの子も魔王討伐パーティの一員だったという名誉があればより良い人生を送れるだろうからね。憑依していた私がいなくなれば体のコントロール権はあの子に返されるわけでーちょっと待って! 私はどうなるの?」
「あなたは魂だけ地球から連れてきただけのイレギュラーな存在。魔王亡き今。あなたの居場所はこの世界には無いのです。再び魂だけにして地球に返してあげましょう」
「地球に帰れるんですか? やったー! ありがとうございます! そうかー。地球に帰れるんだ。良かった。本当に良かったよ」
「魔王を倒してくれたお礼に今持っているスキルをそのままそっくり持たせます。チート野郎ですね? 女性ですけど。そしてこの一年間は地球では僅かに1秒しか経過していないのです。よかったですね。
地球。特に日本はこの世界と違って人を傷つけたり殺したりすれば忽ち指名手配されて社会的に抹殺されるでしょう。お気をつけて」
「はい! わかりました! 大丈夫ですよ私のスキルで攻撃的な物はあんまり無いしね。地球には魔物も魔王だって居ないんだし。地球の元いた時間に戻れるなら誰にも迷惑も心配も掛けなくて済むから助かるよ。ありがとうございます」
「時間がきたようです。あなたは知らないでしょうが地球にはあなたのように異世界から帰還したチート野郎や吸血鬼。死霊使い。そして凶悪な宇宙人がそこそこ居ます。あなたの使命はそれら人類の敵から地球を守る事なのですーー」
「え! そんな重大なことをサラッと言われても困るよ! もっと詳しく教えてーー」
高校一年生の三学期の始業式の朝という、一年前の地球に戻った時。自分がどこにいるのか直ぐにはわからなかったけど、クラスの皆んなや部活の友達と会話をして、間違いなく地球に戻れたことを確信できた時は本当に安心できた。
その後、驚くべきことに同じクラスの御子柴君と伊集院君が私と同じく異世界に飛ばされて一年間の異世界生活を過ごしていた人たちであることが分かった!
しかもあの白い世界にいた女性から私と同じ事を言われたそうだから「異世界から帰還したチート野郎、吸血鬼、死霊使い、宇宙人などの人類の敵」が本当にいるのかもしれない。少なくとも私と御子柴君と伊集院君3人という「異世界から帰還したチート野郎」は間違いなくいる訳だし。
御子柴君と伊集院君とは今まではあんまり話をしたことはなかったけど仲間になってもらってお互いのスキルを確認したり異世界での経験とか様子とかを話し合ったりした。
その後。2ヶ月経って3月になったけど人類の敵は現れなかった。
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