第7話 三学期の終わり


「それで御子柴君。あなた達は理系に進むのね?」


「うん。そうなんだ。俺たちってホラ。女子ウケしないでしょ?だから女子やイケてる男子の多い文系クラスだと居心地悪いと思ってね。

学力的には文理どっちでも良いんだけどさ。やっぱ普段の生活が大事だし将来文系でないと困るような職業に就きたい希望が今あるわけでもないし」


「なるほどね。アタシは看護学科に行きたいから理系に行く予定なんだよ。クラスが一緒になるかもね?

そうだ。芸術の選択が一緒だったら同じクラスになれるんじゃ?アンタたち何選択してる?」


「ええー。俺たちは二人とも美術で如月さんと同じですー。知らないの?俺たちは知ってるのに。傷つきましたー」


「あ、そうだったの。じゃ同じになるかもね。ふふ。同じになったらよろしくね」




 この笑顔。素晴らしいです。ずっと見ていたいです。




「コンコン!お菓子と飲み物持ってきたよ!」お母さんだ!


「はいはい。ありがとうーお母さん」立ち上がって受け取りに行く。


「入りますよーあらあら。同級生の女の子のお客様なんて生まれて初めてかしらねーしかもこんな綺麗なお嬢様。いつでも来て頂いていいですからね。如月さん♪駅前のケーキ屋さんのショートケーキですよ。遠慮なくどうぞ」


「あ。お母様。ありがとうございます。駅前のお店は私も時々買いに行きますけど美味しいですよね。大好きな味です」


「あら。そうなの。どのあたりにお住まいですか? ーーまあまあ!その地区は良く知ってますよ。コンビニの角のところに産婦人科病院があるでしょ?その病院でこの子が産まれたーー ええっ茜さんもその病院で!誕生日はいつなのかしらーーなんと!うちの子と3日しか違わないのね!これはもはや誕生パーティを合同で行っても良いレベルでは?ーー」





 母親が舞い上がっている。母親が余所行きの顔で舞い上がっているって。なんでこんなに恥ずかしいんだろう。


 傍から見たら単にはしゃいでいるおばさんだから別に気にする必要はないとは思うがこのムズムズするこれじゃない感が止まらない。


 しかし我慢だ。これを「お母さんいい加減にしなよー」とか言いながらインターセプトすると母親の反撃を喰らって痛々しい親子喧嘩を披露するという地獄を見ることになる。我慢するのだー





結局20分ぐらいお喋りされてしまった。




「如月さんごめんね。おしゃべりに付き合ってもらって。家のお母さんって女の子のお客さん初めてで舞い上がっちゃったんだと思うんだよね。疲れたでしょ」


「いやいや大丈夫だよ。アタシも女子のはしくれ。おしゃべりはそれなりに好きだし。お母様からはアタシへの好意しか感じなかったから全然イヤじゃなかったよ?」



 うはー。天使ですか。さすがスクールカースト最上位のプリンセス。コミュニケーション能力も素晴らしい訳ですね。こりゃあとでお母さん。如月さん茜さんって煩くなるぞー。



「そういってもらって助かるよ。ありがとう如月さん。さすがだね。男じゃこうは行かないからね。女子だなー」


「ははっ何言ってるの。当たり前でしょー女子なんだから。で。文理選択は理系でいいとして。あ。気が変わったら教えてよ?アタシの知らないうちに黙って変更してたら許さないからね?」


「任せてよ。変更しないし変更するなら必ず相談するよ」


「頼んだよ。でね。異世界言語(万能)とか。ほかのスキルの使い道ってどう? なんかありそう? 犯罪的行為。グレー含んでダメだからね? 犯罪ダメ絶対。どう?」



「鑑定とか意外と役に立たないんだよね。テスト問題鑑定しても『紙』としか出ないし。俺が知らない素材はだいたい『不明』だしなー。

アイテムボックスは有望だと思うけど思いつく使用方法って密輸とか窃盗。こんな特殊技能持ってるって知られたらどんな扱いを受けるのか恐ろしくてオープンに出来ないよねー。もちろん何らかの緊急事態になっちゃったら人命救助には使えるだろうけど。スーパーヒーローみたいなこと希望しないでしょう?」


「そうなんだよね。現代社会ではイマイチ使いずらいんだよね。社会が崩壊して弱肉強食の世界になったならかなり役に立つと思うけど。でもそんな世界は願いさげだし」



「如月さんの『お宝検知』って埋蔵金とか宝くじ、スクラッチとか見つけること出来ないの?」


「ああ。これね。高校生だから宝くじ的なものは買いにくくて。確かめられていないのよ。でもなんとなくダメな気がする。不思議とこの感覚って合っていることが多いのよ。だから一応試すけどダメだろうなあ」


「ふーん。じゃあいまのところ異世界言語とあとは身体強化を目立たぬところで使う?スポーツ選手になれば生かせるかもだけど。突然高校から始めて無双するのも不自然で怪しいし。

全力で科学的に解析されたら異常性を浮き彫りにされてヤバそう。バレてもいいなら大丈夫だけど俺はバレるのは嫌なんだよねー」


「あとはホントに人類の敵がいたときに対処できるかもってことか。嫌だけどそういう事態にも備えるっていうか。覚悟しておいた方が良いのかなあ」








 俺たち3人はその後もだらだらと人類の敵だとかスキルのうまい使い方だとか。看護師さんってやっぱ理系なの~? とか。英語と小論文だけで応仁大学の総合政策受けれるらしいから小論文頑張ろうかな~とか。


 伊集院君は身体強化系を活用すれば警察とか消防とか良いんじゃない? とか。


 如月さんが『うちのお父さんが公務員は最強の資格だからな~茜も下手に就職するなら警察か消防に行けって言ってるよ』というと伊集院君は本当にうれしそうに『そうか。僕も考えてみようかな』などと前向きに考えている。




 この日は遅くまで御子柴家に居たため父親が帰ってきて。如月さんと伊集院君も一緒にどうぞということで夕食を食べていくことになった。


 やっぱ女の子を引き留めると親も心配するということで如月さんの家に連絡して夕食後に車で送り届けますということになった。


 母親も父親も上機嫌で御子柴家が最高度に絶好調の一日となったのであった。






♢♢♢♢






 その後。一ヶ月経っても人類の敵は現れなかった。


 俺たち三人は「なぜ如月茜さんがあの二人と一緒に居るのか謎」と不思議がられつつも高校生活を送っている。




 如月茜さんはお父さんの転勤で他県に引っ越すことになった。3月の末には引っ越して4月からは新しい高校に編入するんだって。せっかく仲良くなれたのに残念。あんなに人類の敵を怖がってたのに大丈夫かな?ちょっと心配。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る