第9話 茜ちゃんの引っ越し(1)

【3月上旬 千葉県K市】


 私は如月茜。女子バスケットボール部に入ってる高校一年生。三学期の始業式の朝、異世界に放り込まれたけど1秒後には無事元いた場所に戻ってくることが出来た。




 今日は3月に入ってすぐの期末テスト期間中なんだけど、登校前に朝ごはんを食べているとお母さんが「あ、そうそう」とか言いながら重大な話をぶち込んできた。



「茜ちゃん。3月の末にお父さんが転勤になるって決まってね。引っ越しするから高校も転校になるのよ。部活とかお友達とかお別れになるからごめんね? でもこれが最後の引っ越し。最初は官舎に入るけど、早々に家を買うからね」



 アタシのお父さんは航空自衛隊に勤めていて3月の末に千葉県の木更津分屯基地から埼玉県の入間基地に転勤になるんだって。お父さんの仕事は頻繁に転勤があって今住んでいるところの前には入間基地の近くに住んでいた。



「そうなの、お母さん? 分かったよ。入間基地の近くならよく知ってるし友達もいるからね。問題ないけど高校ってどうなるの?」


「学校の先生に聞いたらね、県立高校の中から似たような学力の所を紹介してくれるんだって。今聞いてもらってるからちょっと待ってね」


「うん。分かった」







 結局、編入させてくれる高校は埼玉県立T高校だって。引っ越し先の官舎から近いし入間基地ともそこそこ近いから昔の友達も居るかもしれない。SNSで連絡してみよう。



 引っ越しすることを部活やクラスのみんなに言うと大騒ぎになったけどしょうがないよね。御子柴君と伊集院君は残念がっていたけど心配もしてくれた。いつでも連絡してくれって。この子達って凄く優しいんだよね。こんな仲間が居てくれて良かった。







【3月27日 土曜日 千葉県K市】




「御子柴君、やっぱり女子バスケットボール部の人たちが改札口に集まっているよ。あの人たちに見つからないように回り道して隠れていこうか?」


「はあ。あの人は間違いなく二年生の女バスのキャプテン。あと一年生部員だけでなく二年生部員もいるみたいだね。

でも茜さんがちゃんと説明して僕たちに対する誤解を解いておくって言ってたから大丈夫だと思うよ? それに改札口一個しか無いから避けようがないし」


「だったらしょうがないね。じゃこのままあの人たちの横を通って茜さんの家に行く?」 





 俺と伊集院君の二人はこの春休み中に引っ越してしまう如月茜さんのお見送りというか、お別れの挨拶に茜さんの自宅に向かうところだ。


 今日の朝9時から引っ越し荷物をトラックに積み始めて11時頃には出発してしまうということで、10時頃に着けるように茜さん家の最寄り駅に着いたんだけれどーー。

 駅改札を出たあたりにたむろしている女バスの皆さんを発見したのだ。彼女たちもお見送りに来て待ち合わせしてるんだろう。



 伊集院君と二人で改札を出たところ、女バスのキャプテンと目が合ったので軽く会釈をしておく。俺も勇者なんだからこの程度は出来るのである。



「あなた達、ちょっと待ちなさい?」


「はははいいい~な何でしょうかかああ?」



 キャプテンに声を掛けられた! 

 伊集院君がおかしなことになっている!



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