マジでゲームって買えない時ある
この日は珍しいメンバーの俺、凪、真白の三人で昼食だった。
吉町も八瀬もそれぞれ委員会と部活で居らず、普段なかなか揃わないメンバーに若干不安だったが、凪を中心に会話はそれなりに盛り上がっていた。
「…………」
「……? 凪いきなり黙ってどうしたんだ」
「大和なんか機嫌よくない?」
突然、俺の顔をじっと見つめ出した凪は若干自信ありげに言う。
「そんなことねぇよ……」
「ううん、普段より食べるの早いし、椅子に座りなおす回数も多いよ」
「「えっ」」
「……冗談だよ?」
不安を煽る間の後、いきなり凪は笑顔になる。
「ビビった」
背筋が凍るのがハッキリと分かった。
「こっそり付き合ってるくらいは考えてたけど、ストーカーなのかと思って怖かった」
「大和も大宮さんも僕のことなんだと思ってるんだよ~」
「割と宮村との関係性が不安な人」
「ただの友達だ」
ちなみに俺もたまに思う。
「でも大和がソワソワしてるのは何となく分かるよ。何かあるの?」
目を輝かせて迫ってくる凪に、俺は諦める。
「げ、ゲームの発売日なんだよ」
「……本当に大和は裏切らないよね。本当に色んな意味で」
恋愛的な意味でも、お笑い的な意味でもあんまりだ。
「仕方ないだろ!すごい前から楽しみにしてたんだよ」
「ならもったいぶらずに素直に言えばいいのに」
「だってゲームの発売日でワクワクするとか子供みたいだろ」
「まだあなたも未成年でしょ」
「本当に大和の悪い癖だよね。良い意味でも悪い意味でもゲームへの造詣が詳しいの」
「そんなつもりないんだが」
「ならそのゲームどれくらい楽しみ?」
「正直、めっちゃ楽しみ」
ここだけ即答だった。
「大和はもっとゲームにも素直になればいいのになぁ」
「別にひねくれてるつもりもないんだが」
「素直に認めたら今日の掃除当番変わってあげようか?」
「認める」
俺が間違っていた。
「絶対心にも思ってないでしょ……」
ちなみにマジで思ってない。
「いいよ。楽しみなの分かってるからそれくらい変わるよ」
それからもゲームの会話で場は盛り上がるが、俺は持ってきていたお茶が無くなっていたことに気付く。
「っと悪い。飲み物無くなったから買ってくる」
「いってらっしゃーい」
凪に手を振られて宮村は教室を出ていく。
「大和、本当にゲーム楽しみそうだね」
「うん、二人の時も結構言ってた」
「ふーん……」
凪の目線が少しだけ鋭くなる。
「な、何……?」
「大宮さんと大和って仲良いよね」
「そうかな」
「二人で帰ったりとかしてるよね」
「それはたまたま会うことが多いからで」
「たまたま会うくらいの間柄の女の子を、大和が下の名前で呼んだりしないと思うけどな」
分かってらっしゃる。
「もしかして大宮さん、大和のこと……」
「……! 違っ!」
真白が凪の言葉を止めようとするが、間に合わない。
「大宮さん……ゲーム好きなの?」
「……あぁ……はい」
真白の予想とは違う言葉に、一瞬で冷静になっていくのが分かる。
「だよね。大和がゲーム好きって話を僕以外にしているのほとんど見たことないんだよね」
「確かにそうだ……」
真白も彼が自分以外とゲームをしているところどころか、誰かとゲームの話をしているとことも思い出せなかった。
「大宮さんと大和の接点はやっぱりそれ?」
「この前ゲーセンで会ったんだよ」
「そっか~大和が自分から声掛けるわけないもんね」
凪はうんうんと頷いている。
「へぇ……あ、でも大宮さん」
突然、凪が真剣な表情とトーンになる。
「うるさいかもしれないけど、大宮さんは大和のこと好き? 恋愛感情的な意味なんだけど」
いつもの凪らしくない、真面目な聞き方だ。
「そういうのじゃないよ。凪くんと同じただの友達」
「そっか、大和がモテモテじゃなくてよかったよ」
大和をひとしきりディスってから凪は息を整える。
「でも大和も男の子だし、好きな子もいるよ」」
普段から大和に恋愛話を振る凪だが、知らないふりしていても大和の好きな人くらいは雰囲気で知っていた。
真白もそんな凪に内心驚くが、自分が宮村としずくをくっつけようとしていることは隠して話を続ける。
「……うん、気を付けるね」
「大宮さんなら大丈夫だと思うけど、大和が傷つくようなことがあったら、多分僕、すごく怒っちゃうと思うから」
「ずいぶん宮村のこと気にするんだね」
「そりゃ親友だからね」
凪は自信満々に胸を張る。
「なんで二人はそんなに仲良くなったの?」
方やクラスでは目立たないゲーム好き男子、方や学校でも有名なアウトドアな美少年
クラスが同じでもねじれの関係と言ってもいいだろう。
「色々あったけど、一番大きかったのはね~……顔かな」
「か、顔!?」
「あぁ、顔って言うか表情なんだけど」
「表情ね……」
真白は思わず肩を撫でおろしてしまう。今までの言動もあって冗談に聞こえなかったのだ。
「でも表情って?」
「大和って結構顔に出ちゃうでしょ?」
「そうだね」
二人して、すぐに喜怒哀楽の宮村がイメージできる。
「僕ってこんな見た目してるから結構舐められたりとか、思ってもないことを思われてたりすることもあったりしたんだよ」
好意であったり、悪意であったり、普通に生活したい凪にとっては不都合なものでしかなかったのだ。
「でも大和はどんなことでも表面に出ちゃうんだよ。それをごまかす技術もない。だって初めて会った時なんか顔赤くして困ってたくらいだよ」
「確かに私も外で初めて会った時は、少し嫌な顔されたよ」
「大和の良い所はそれを正直に口に出すところ。もちろん気を使うことはあるけど、言いたいことは言えて、凄いものは凄いって言える。それって結構凄いことじゃない?」
凪は何よりも誤魔化されることが嫌いだった。だけどそれに反して周りの人は凪への気持ちを隠したりする。
そんな中で大和は普通であったが、逆に凪にとってはその普通が欲しかったのだ。
「なんか分かる気がする」
まだ会話するようになって時間もそこまで経っていない真白にも共感出来た。
「長々と僕の話ばかりしちゃってごめんね」
「私から聞いたんだから気にしないでよ」
「でも色々言ったけど、大宮さんが大和のことを好きになってくれたら解決なんだけどね」
「ないない」
「えー?結構優良物件だと思うよ。優しいし、気も使える」
凪の口からは宮村の自慢がいくつも出てくる。
「勉強も出来るから、補習対策もバッチリ」
「それは凪くんのメリットでしょ」
さっきの話の信憑性が下がってしまう。
「本当だぞ。凪はもう少し勉強しろ」
「や、大和いつから居たの!?」
「え? 補習対策の話くらいからだったけど」
「あぁぁぁ!! バカバカバカ」
安堵の表情を浮かべた凪だったが、何故かすぐに俺の胸辺りを叩く。
「よく分からないけど、気に障ったな悪かったって……」
俺は手に持っていたものを凪の手に握らせる。
「あ、これ」
「お前、ご飯食べた後に飲み物買いに行ってるだろ? ついでに買ってきた」
「やっぱり大和は僕の大親友だね~!」
「今、親友って言葉がとてつもなく軽く感じるんだけど」
「真白に同感」
「また新しいゲーム買ったら一緒にやろうね」
「いや、一人用ゲームだよ」
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