第3話 そっと、重ねて
忘れ物にはすぐ気づいた。私はその寝間着を手に取り、追いかけるためにドアに手をかけ……その手が止まる。
……少し、少しだけ。ドアから離れ、ベッドに座る。
寝間着を見つめる。今日は白い百合の花模様のパジャマだ。さっきのみこの匂いを思い出す。甘酸っぱい……私はとても好きな匂いだ。
そっと、パジャマを顔に近づける。かすかに、みこの香りを感じる。幸せだ、と思ってしまう
……気づくとパジャマに顔を埋めていた。私は駄目なな姉だ。そう思うけど私の鼻は吸い込む事をやめない。みこ……好き。
私はベッドに寝転がり、自分の胸にゆっくり触れる。ああ、だめだ。そんなことをしたら更に、堕ちてしまう。同性の、実の妹を題材に自分を慰めるなんて……そんな事は絶対に、駄目だ。私の理性は虚しく叫ぶ。しかし本能は、欲望は、聞く耳を持とうとしない。
気持ちいいところに手が触れる。「はぁあ」と声が漏れる。匂いとともに頭の中が幸せに包まれる。
――こんなところを見つかったら、私は終わる。
「おねーちゃん、私パジャマ忘れちゃったー」ガチャリ、とドアが開きみこが部屋にはいってきた。終わった。
「あ、寝てた? ごめんねおこしちゃって……」とみこはベッドの前にくる。「ん、なにしてるの? 私のパジャマ顔にくっつけて……」
「あ、あ、や、その」私は固まったままうまく返答ができない。
「なんか臭かったー?」パジャマを私の手から取り上げる。
「いっ、いや」私は声を上ずらせながらやっとの事で答える。
「んー、わかんないなぁ」みこはくんくんとパジャマを嗅いで確かめる。「もしかして、私が臭いのかな?」肌着の胸元を引っ張って自分の匂いを確かめる。
私はベッドからゆっくりと起き上がる。どうしよう、見られちゃった。頭の中が混乱で真っ白になってる。
「うーん。お風呂今日入ったんだけどなぁ……おねーちゃん、私臭い?」みこは少し前かがみになり、胸元をちかづけてくる。
みこは肌着の下は何も着ておらず、裸だった。発育途中の、幼く薄い胸が露わになる。私の視線は欲望のまま、胸に釘付けになってしまう。
「? おねーちゃん?」固まった私を不思議そうにみこは眺める。
「あ、ああ。べ、別に臭くないわよ」なんとか我にかえった私はやっとの事でそう答える。動悸が早くなっているのがわかる。
「そっか〜よかったぁ……」みこはホッとした表情をみる。「あれ、じゃあなんで私のパジャマ顔にくっつけてたの?」と首をかしげながらたずねてくる。
「え、えっと……それは……そのう」言えるわけがない。みこで致そうとしたなんて、言えるわけがない。
「おねーちゃんなんかへん……。ほんとに、ほんとに臭くない?」訝しみながらみこはわたしの肩に手を回し、胸元を私の鼻先に近づけてくる。だめだ。いま生の匂いを嗅いだら私は私でなくなってしまう。
甘酸っぱい、大好きなにおい。脳がじんわり、溶けていく。体が勝手に、みこの胸に顔を擦り付けようとし始める。
だめだためだだめだ! 汚してしまう。みこをこのままベッドに押し倒し、愛しい妹を私の手で汚してしまう!
私の中の欲望を抑えるために理性がとっさに取った行動、それは――。
みこの唇にそっと、自分の唇を重ねた。
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