第4話 はじめて

みこの唇は小さくて、とてもやわらかい。


 ……十秒ほど、口づけをしていた。本当はすぐに離すつもりだったのに、もっと味わいたくてつい、続けてしまった。私の中の欲望は満足したようだった。少なくとも今は。


 ゆっくり、口を離す。やってしまった。キスしてしまった。手を出してしまった。


 ……でも、キスで欲望をごまかさなければ、それこそ私はみこを押し倒してしまっていたかもしれない。理性と欲望のせめぎ合い、その結果がキスだった。


「え……?」みこは驚いた様子でわたしを見つめていた。「なんでキス……?」


「おやすみのキス。むかししてたじゃない」嘘をつく。私達はたしかに何年か昔、寝る前におやすみのチュウをしていた。


「でもあのときはほっぺだったような……」たしかにそうだ。これはおやすみではなくだいすきのキスだ。嘘をついたことにずきん、と胸が痛む。


「あっ……ああ、そうだったかしら。ひさしぶりにしたから間違えちゃったわ」震える声でごまかす。「ほっ、ほらもう忘れないようにしなさい」パジャマをみこに着せて前のボタンをとめる。……肌着のままだとまた私の欲望が起き上がってしまう。


「そっかぁ。……はじめてだけど、いいかも」その言葉を聞いて、私ははっとして顔をあげる。


 みこの顔は、無邪気な子供の表情ではなくなっていた。甘く笑い、蕩けていた。それはまるでいやらしい大人のように。


 ……ああ、やってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る