第2話 異世界チート対策局三番隊隊長一ノ瀬一
ドンドンドンっ、という爆発音によく似た音が室内に響く。
部屋の中では、黒髪の男が一心不乱にサンドバッグに打撃を打ち込んでいたのだった。
目にも止まらぬコンビネーション。美しさを感じる洗練された動きはずっと見ていても飽きない。
身長は百八十センチメートルほど。筋肉質で鍛え上げられた肉体は見事で、汗が滴りできた床の水たまりの上で、バランスを崩さず激しい動きを続けている。
トレーニングは彼にとって息をすることと等しい。休みの日はもちろん、ちょっとした仕事の合間にさえ、この三番隊の隊舎内にあるトレーニングルームで汗を流す。
打撃用のサンドバッグ、体を鍛える筋トレ器具、武器・銃火器の練習スペース、魔法や魔力を当てる的、精神力を鍛える座禅場所。トレーニングルームに対する彼のこだわりは留まることを知らず、仕事の給与の大半はこの部屋に注ぎ込んでいる。
一時間にも及ぶ彼のトレーニングを止めたのは、サイレンの音。続けて、アナウンスが入った。
『コルタナ支部より緊急要請。三番隊直ちに出動準備をしてください』
彼の精悍な顔つきは微動だにしなかった。しかし、無表情に揺れるサンドバッグ見つめるが、その瞳には輝きが灯っているように見える。
ずっと同じペースで激しい運動を一時間も続けた彼の呼吸はさすがに浅くなっていた。が、深く一呼吸するとたちまち元の呼吸へと戻った。
「失礼します」
トレーニングルームへと入ってきたのは、銀髪の美女。さらさらとしたロングヘアに、綺麗な青い瞳は透き通っている。整いすぎた顔立ちに加え、抜群のプロポーションで、男性だけでなく、女性の目も引くほどの女性だった。
彼女の名前はルリ。一と同じ三番隊で。副隊長をしている。
一は何も言わなかった。用件は分かっているからだ。
「上着をお持ちしておりますので、早く準備をお願いします」
動かない一をルリは淡々と急かした。
「俺らの仕事は暇の方がいいんだけどな。チートの濫用者さえいなければ、俺たちが鍛える必要も、能力を使う必要もないからな」
汗を拭き、ルリから受け取った上着を着ながら、一はぼやく。
「同感ですが、力があれば振るいたくなる人間がいるのが現実です」
「まあ多少なら問題ないんだけど、自分の快楽のために使う奴もいるからな」
「そういう人たちを#強制転生__BAN__#するのが私たちの役目です。さあ、早く行きましょう」
異世界チート対策局 @Kur0
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