第27話「お前が悩んで考えろ」
楓からの衝撃なお願いを断った次の日。俺は放課後がくるのが少し憂鬱だった。
昨日のことがあってか会った時にどんな顔をすればいいのか分からないし、どんな話をすればいいのか思いつかない。できれば二人ともあんまり気にしていなければいいが、また昨日みたいな沈黙の空間になるのはなんとか避けたい。
そんな気分の中、ちょうど最後の授業が終わったときに先輩と楓からメッセージが来た。内容は二人とも今日は用事があって放課後に図書室に来られないそうだ。……正直、残念のような少しホッとしたような気がした。
ただ、放課後のその予定が無くなると途端に暇になってしまう。特段何かしたいわけではないのだが、家にすぐ帰るのもつまらないと思った。せっかくだし本屋で小説でも買おうかなと思っていると猫宮が話しかけてきた。
「ん? 犬、どうした? なんか困った顔してんな? 仕方ない、俺が話聞いてやんぜ」
いつも通りウザい絡み方をしてきた。ただ、いつも思うのだが、猫宮がそういう絡み方をするときはだいたい俺が本当に困っている時や悩んでいる時が多い。こいつはそういう人のそういう気持ちに気が付くのが得意なのかもしれない。なんだか癪に障るが。
いつもならば断わっていたであろう猫宮の提案を俺は受けることにした。それぐらいに俺は誰かの助けが欲しかったようだ。
丁度いい事にみんな帰宅や部活に向かうからバタバタしているから、俺たちの会話を聞いている人はいない。少し緊張しているのを悟られないように、自然に話す。
「なあ、お前ってデートとか誘われたことあるか?」
「え? デート? いや、ねーけど。って、なんだお前デートに誘われたのか? 嘘! 誰だ誰だ? 可愛いか? 可愛いのか?」
相変わらず一人でも賑やかなやつだ。というか、うるさい。早速、こいつに相談したことを後悔したが、最後まで話さないとうるさいので仕方なく昨日の楓の事を話した。猫宮も昔、楓とサッカーをしていたので楓のことを知っている。
「え! カエデックスか! ああー、久しぶりに話したけどカエデックスは可愛くなってたよな。……って犬、お前カエデックスからデートに誘われたのか! 良かったな!」
ちなみに楓が男だと気が付いていなかったのは俺だけで、他の奴らは知っていたらしくそのことで笑われたのは別の話。
「別に良くねえよ。断ったし」
俺の返事で猫宮は驚いた。
「え? なんでお前断ったんだよ! カエデックスがかわいそうだろうが。もしかして彼女でもいんのか?」
「彼女はいねーよ。なんでも楓の友達が彼氏持ちだったりデート経験者が多いから自分もしてみたくて、身近な俺に頼んだらしい。そんな理由だったから、好きなヤツができたらそいつと行った方が良いって言ったんだ」
そう言った俺の顔を猫宮はじっと見ていた。それが鬱陶しくて文句を言う。
「なんだよこっち見て、言いたいことがあるなら言えよ」
それを聞いた猫宮ははぁ~っとため息をついてから俺に言った。
「あのよー、フツーに考えてそんな風な理由でカエデックスがお前を誘うわけねーだろ」
「じゃあどういう意味だよ」
言い返した俺に、猫宮は少し真面目な顔をして言った。
「それは俺が言うべきことじゃねーから言わねーけどよ、カエデックスは適当なヤツなんかとデートするわけないだろ。それに、お前は知らないだろうけど、カエデックスはここに転校してきてから結構な人数に告られてんだぞ。そりゃあんだけ可愛いし、元気で明るいからモテモテになるのは分かる。まー、それでも誰とも付き合ってねーみたいだし、デートすら断ってるらしいんだよ」
……楓がそんなにモテているなんて知らなかった。確かに可愛くなっていたし、元気なところも良い所だと思っていたが。
「どういう風な返事をするかはお前が決めることだから俺は何も言わねーけどよ、相手が何を思ってそういう風に言っているかはキチンと考えてあげた方がいいんじゃねーか。少なくともカエデックスは周りに流されるような奴じゃないだろ。そんなことはお前が一番知ってんだろ」
なんで俺はそんな当然の事に気が付かなったんだ。楓は全然知らない人じゃない。一緒に過ごしてきた大切な人だ。楓がどういう思いでそのことを切り出したのかを俺は考えることもせず、勝手に一般的なイメージで判断して俺の意見だけ押し付けてしまった。
俺の表情の変化を読み取った猫宮は最後に言った。
「だからよ、もしまたちゃんと話す機会があって、お前が何かしたいと思うならちゃんと伝えてやれよ。どうしたいか、何を伝えたいかは、お前が悩んで考えろ。それが今、犬宮 翔にできる唯一のことだ」
結局、その日は本屋に寄らず家に帰った。ベッドの上で猫宮の言ったことが脳内をぐるぐると回っている。
楓のお願い。楓の悲しそうな顔。今日会えなかった二人。咲先輩。沈黙の放課後。俺の気持ち。
俺は……
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